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 ミッシェル・トロワグロ氏やピエール・ガニェール氏など、フランスの名料理人たちのもとでシェフ・パティシエを務め、現在はコンサルタントとしてパリを拠点に世界で活躍する、パティシエの長江桂子さん。

 長野県・軽井沢の「クレソンリバーサイドストーリー旧軽井沢」では、彼女が手掛けるコラボレーションデザートが提供され、大きな人気を博しています。

 デザートも秋の装いへと変わり、スペシャルなアフタヌーンティーに加え、サンドイッチやバーガーといったお食事メニューも登場。ひとつひとつに秋の軽井沢の豊かな自然と美味が映し出され、心がときめきます。

 こちらでは、秋のよろこびをじっくり楽しむ、秋の限定メニューをご紹介しましょう。

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重なり合う落ち葉の美しさを表現

 秋の「クレソンリバーサイドストーリー旧軽井沢」で味わいたいのは、アフタヌーンティーばかりではありません。夏に好評を博した長江桂子さんによるデザートは、ラインナップを一新して2品がメニューに並びます。

 まずは、目にも舌にも秋らしさあふれる、「落ち葉~アールグレイとチョコレート、洋梨のハーモニー~」を。お皿をこんもりと埋め尽くす、落ち葉をモチーフとした色とりどりのクレープ・ダンテル(薄焼きクレープ)があまりにも美しく、息をすることも忘れて見とれてしまいます。

 赤い紅葉はビーツと紫芋、黄色いイチョウはターメリック、緑色の桑の葉はホウレンソウで色づけされ、色素や香料は一切不使用。ナチュラルな色合いが光に透けてやさしく重なり合います。

 「秋の訪れとともに日に日に色を変えていく庭の木々の美しさは、自然だから成せるもの。同じ紅葉でも濃い緑に淡い緑、黄色、赤といろいろあって、それをお皿の上にそのまま表現したいと思いました」と、長江さん。

 仕上げにアールグレイ風味のアングレーズソース(カスタードソース)が目の前で回しかけられ、本物の落ち葉のようにカサカサと音を立てるクレープ・ダンテルの下から現れるのは、アールグレイを香らせたチョコレートのクリームとムース、そして、長野県産の洋ナシのソルベ。

 さらにはフレッシュな洋ナシや信州クルミのキャラメリゼ、カカオニブのヌガチン、クランチなどが散りばめられ、にぎやかな食感に気分が浮き立ちます。それでいて味わいと香りは気品高く、深みがありつつエレガント。口の中ですべてが一体となって調和し、豊かな余韻に包まれます。

 「スフレは、レストランデザートの醍醐味。自らの足で軽井沢周辺の農園を訪ね、そのときどきで質のいい小ぶりのリンゴを選び、収穫して厨房へ(撮影当日は中野市産の紅玉)。果肉を厚めに残してくり抜き、中に焦がしバターを塗って砂糖をまぶし、リンゴのコンポートとスプレッドを混ぜたスフレを絞り込んで焼き上げました。りんごのナチュラルな酸味とフレッシュ感、焼いた後にも残るシャキシャキとした食感が楽しめると思います」と、長江さん。

 熱々のうちにテーブルへと運ばれ、目の前でスフレの上にのせられるのは、キラキラと輝くリンゴの果汁を煮詰めたジュレ。そばには長野の山で採取した黒文字のアイスクリームとパイ、カカオ風味のクランブル、塩味をきかせたヘーゼルナッツのロースト、ローズマリーが香るクリーム、庭の苔に見立てた抹茶のビスキュイが添えられています。そして、土感の風味を持つ、ほかの料理で使用した菊芋の皮を乾燥させたものも散らしてアクセントに。

 上にのせたジュレは、スフレの熱によって次第にとろっと溶けてソースのようになり、クリアな酸が心地よいアクセントに。清涼感あふれる黒文字の上品な香りとリンゴの甘酸っぱさが出合い、清々しいハーモニーを醸し出します。そばに添えられたシードル入りのキャラメルソースを途中でかければ、深みとコクが加わり、おだやかにマッチ。リンゴから広がる秋の香りを心ゆくまで堪能できます。長野の生産者のリンゴを使った、クレソンリバーサイドストーリー旧軽井沢の自家製シードルとのペアリングもおすすめです。

2023.10.24(火)
文・撮影=瀬戸理恵子