救われたい、救いたいという気持ちは、売野が千駄ケ谷のホテルで話した「そういう危うい女の子たちが本当に救われたら男の子たちはどうするのかなっていうことかもしれない」にも、亜紀が春にまだ話していない過去とも、つながっていく。

 ほんとうは自分自身の傷を見なければならないのに、見ることが怖いから、それを誰かを救うことにすり替えてしまっている人は意外に多いのかもしれない。すり替えたいから、救うべき誰かを見つけたいのかもしれない。

 それが恋愛の始まりだったとして、その先にはいくつか展開する可能性がある。どの可能性へ向かっていくかは、まだ、わからない。

 小説の最後、春は亜紀との始まりを自分自身で語ろうとする。

 いくつもの物語を読み直し、語り直す人たちの思いを受け取ったあとの春が、今の自分で、今の自分の言葉で、自分をどう綴っていくのか。

「文庫版あとがき」で島本さんが書いているように、改稿されたこの小説を読むことが、彼女の物語を受け取ることになるのだと思う。

星のように離れて雨のように散った

定価 748円(税込)
文藝春秋
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2023.10.03(火)
文=柴崎 友香(作家)