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 2023年の秋アニメの中でも大注目の「葬送のフリーレン」。「週刊少年サンデー」で連載中の同名マンガを原作に、勇者とそのパーティーが魔王を倒した“その後”の世界を描く物語だ。勇者パーティーのひとりだった魔法使いのフリーレンは、1000年以上生きるエルフ。英雄として讃えられた勇者のヒンメルが人間としての寿命を全うするのを見送った後、“人を知る”ことをしてこなかった自分を悔い、“人を知るため”の新たな旅に向かう。寿命の短い人間を見つめるフリーレンの眼差しに、見る人はきっと明日からの生き方を考えるだろう。

 主人公のフリーレンに大きな影響を与える勇者ヒンメルを演じるのが、声優の岡本信彦さん。「僕のヒーローアカデミア」爆豪勝己役や「鬼滅の刃」不死川玄弥など感情を揺さぶるキャラクターを演じることも多い岡本さんだが、本作ではやわらかい空気をまとった人間味のある勇者を演じている。所属事務所社長を務め、幼少期から続けている将棋や大好きなスイーツで自身を癒す。多忙ながらも毎日を楽しく生きる岡本さんに、ヒンメルを通して感じたことを教えてもらった。【後篇】を読む


180度変わったヒンメルの印象

――「葬送のフリーレン」の原作に初めて触れたときのことを教えてください。

 ある番組に出演したときに漫画にアテレコをするという企画があって、そこで『葬送のフリーレン』を初めて知りました。そのときは、ヒンメルという勇者がいて、さらにフリーレンという魔法使いの子がすごく強いんだろうなという漠然としたイメージでやっていたんですよね。その後アニメ化されるということでヒンメル役のオーディションを受けることになり、改めてしっかり原作を読んでみたら、最初に声を当てたときとは比べものにならないぐらいガラッと印象が変わりました。1000年以上生きるエルフという種族から見た人間の儚さを描いている。冒険譚でありながら心が温まる。人生単位の世界観という設定に、なんて重厚感あふれる物語なんだと思いましたね。

――岡本さん演じるヒンメルは、魔王を倒したことで世界中から英雄として讃えられるようになった勇者です。どのように彼を捉えていきましたか?

 1次オーディションはテープオーディションだったので、番組でやったときのようにかっこよく演じてみたんです。ヒンメルは自分をイケメンだと言っているナルシストキャラなので。その後スタジオオーディションに進んだら「もっと自然にお願いします」というディレクションを受けたので、そこでテイストをガラッと変えました。硬い口調だったのをやわらかくしたり。ヒンメル役に合格したと知ったときは、驚きましたね。だからアフレコにはちょっと気負いながら行ったんですが、「もっと自然で大丈夫です」と言われて、そこでようやくこの作品のテイストがわかったんです。

 ライトノベル原作など多くのファンタジー作品だと、必殺技をしっかり叫んで、喜怒哀楽をはっきりさせ、個々のセリフを誰にかけるかを明確にパキパキと分けていく。そういうお芝居をすることが多いんですが、「葬送のフリーレン」はもっと生っぽいお芝居……映画の吹き替えや、さらに言うなら邦画のようなテイストのお芝居を求められているんだなと。それからはどれだけ自然に、立体的にお芝居できるかを意識するようにしましたね。

2023.09.29(金)
文=大曲智子
写真=鈴木七絵