異次元の「丘」へいざ

 「丘」はそんな武将たちの背後のビルにあった。

 ガラスにめいっぱい蛍光色の手作りメニューが貼り付けられている。統一感はなく、まるでチラシやメモを貼りまくった実家の冷蔵庫のようだ。おかげで中の様子はよく分からないが、この時点で個性あふれる店であるのは予想がつく。

 さあ、いざ中へ。ドアを開けたとたん……眩しい!

 我々の予想の斜め上を行くすごい世界が広がっていた。壁という壁、そして天井にも隙間なく銀色が輝いている。これは全く想像していなかった。不思議な模様が不規則に描かれているのも謎である。城下町の戦国武将ゾーンからタイムスリップしたかのような衝撃だ。

 70年代のSF映画か、それとも宇宙船の中にでもいるかのような、そんな未来的な気分になってくるのだが、銀色の壁に近づいてみれば、その正体は鉄板ではなくレジャーなどで使うアルミシートであった。いったいなぜ店主はアルミシートを隙間なく貼り付けたのだろう?

 声をかけると「どこでもどうぞ~」と、この店のお母さんが出てきてくれた。よかった、普通に優しそうな方で。店の奥の席へと向かうと、何十というカラフルな「丘」のロゴシールが貼られている。座っていても背中から横から全力で「丘」が洪水のように押し寄せてきて、どうにも落ち着かない。「嵐が丘」ならぬ丘の嵐だ。

看板メニューはエッグカレー

 この店の成り立ちが気になるところだが、喫茶店に来たのだから、ともあれ注文をしよう。

 いったいどんな奇天烈な食事を出すのかと、ドキドキしながらメニューブックを開くと、ハンバーグやオムライスなどの普通の喫茶店メニューでほっとする。店内の貼り紙を見ると「丘」では、エッグカレーが看板メニューらしい。そこで懐かしのクリームソーダとともに注文することに。

 待つこと10分、運ばれてきた熱々のエッグカレーは、ミニサラダ付き。思ったよりもスパイシーな味のルーは、玉子の甘味とよく合う。ボリュームもあり、お腹を空かせた学生さんも満足できるだろう。

2023.08.14(月)
文・撮影=白石あづさ