この記事の連載
- 猫沢エミさんインタビュー#1
- 猫沢エミさんインタビュー#2
いま気分がいいなと思えるなら正解なんじゃないか
――パリでお気に入りのアドレスはありますか?
日本でもそうだったのですが、私は、住んでいる近くのエリアしか行かないんです。マルシェに行ったり、カフェしたり、基本は近所で生きていますね。お気に入りの店は、「Les Cailloux」というイタリアレストラン。ランチがおいしいんですが、20ユーロでデザートやワインも込みなんてパリではなかなかないんですよ。
――いま、どんな仕事を進めているのか教えてください。
日本の雑誌の連載をいくつか持っているんですが、連載が本になって出版されるため、いつも校正に追われています。ミシェル・オリヴェさんという60〜70年代にフランスで有名だったシェフの翻訳本を出す予定なんです。子どものための料理の本を作った先駆者のような人で、イラストがそのままレシピになっているグラフィック的にもすごくおもしろい本なんですね。
私が20年前にパリに来た時にその本を見つけて、翻訳して日本で出したいと出版社に提案したりしたんですが、その時は実現しなかった。それがいまになって、たまたま別件で仕事をしたことのある編集者さんから、「猫沢さん、ミシェル・オリヴェさんの本の翻訳やってみませんか?」と声をかけてもらって。長年やりたかったことの話が急に進んで嬉しいですね。
――パートナーと、動物に関するプロジェクトも始められたそうですね。
彼は画家なんですが、一緒に組んでヤンヤンプロジェクトという活動を始めたんです。動物保護活動寄付金付きのオリジナルポートレートを描くプロジェクトで、動物たちの境遇改善に繋げていけたらと思っています。でも活動を始めた途端にふたりとも忙しくなってしまって、やるなら徹夜するしかないかもね、みたいな(笑)。だけど、どんなことも、とりあえずやってしまえ!という勢いって大事だと思うんですよね。やってみないとわからないし、始めないと始まらない。これまでやってきたことだって、振り返ると勢いで始めたことばかりなんですよね。
――新しいことを始める時に、猫沢さんが意識していることはありますか?
最初の扉を開く時って、やっぱり難しい。でも勇気を出して開いてみると、その先が一本じゃなくなるんですよね。バッと開いた瞬間に、いくつもの道が急に現れて無数の可能性が広がる。そこでまた選択するけれど、その選択があっていたのか、違う選択もあっただろうって、必ず後悔が残るんです。
でも、ひとつでも違う扉を開いていたらいまの自分はなかったから、いま気分がいいなと思えるなら正解なんじゃないかと思うんです。何かを決める時って、「あなただったらどうしますか?」とか、ついつい人に聞いてしまうこともあるけれど、他人と自分は関係ない。やっぱりその人がどう生きてどう考えてきたかで選ぶことだと思うから、肝心なところはやっぱりひとりで決めた方が悔いが残らないと思うんですよね。
――パリ暮らしで困ったり、苦労したりすることはありますか?
やっぱり手続き関係って、フランスではなかなかうまくいかないんですよね。こっちが間違っているんじゃなくて、インターネットのシステムエラーで、ここから先はフランス人でさえも進めないみたいなこともしょっちゅうある。今回、初めてフランスで確定申告をやったんですけど、書類を郵送したら、この部署は違うからここに送ってねとか、エラーで書類を無くしたからもう1回出してね、と、何度もやり取りが発生しました。なんで? お役所だよね? と思うし、なかなか気が抜けないですよね(笑)。
でも進行は遅いんだけど、一応何かしら対策を考えてくれているというのがフランスにはあるんですよ。しっかり思いを伝えて食い下がれば、話を聞いてくれたりもする。人間味のある対応をしてはくれるんですよ。
2023.08.12(土)
文・撮影=鈴木桃子