現在、ドラマ『ペンディングトレインー8時23分、明日 君と』では植物に精通する農学部の大学院生を、『0.5の男』では少々天然なハウスメーカーの営業マンを好演している井之脇海さん。
黒沢清監督の映画『トウキョウソナタ』で注目を浴びたのが12歳のとき。その後、着実にキャリアを積み、大学は映画学科の演技コースに進み、自主映画の監督も務めた。
シネフィルであり、実技と知識の両方を併せ持つ、有望な27歳である。
このたび、岩松了作・演出の舞台『カモメよ、そこから銀座は見えるか?』に出演する。本作への期待から、大好きな映画についてまで、幅広く語ってもらった。
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座長を務めて芝居への意識が変わった
――藤田貴大さん作・演出の『CITY』、宮田慶子さん演出の『エレファント・ソング』(ニコラス・ビヨン作)についで舞台は3本目。岩松了さんの作品には初参加ですね。
3本目ではありますが、作品ごとにまるで違うものなので、初めての舞台のような気持ちでやれたらいいなと思っています。
――昨年、主演された『エレファント・ソング』は精神科に入院する少年と院長の対話劇。井之脇さんが演じられたマイケルは、軽妙な語り口とは裏腹に、愛情にとても飢えていることが次第に浮き彫りになり、終盤は胸が締めつけられました。
ありがとうございます。初座長だったということもあり、ものすごく手応えを感じました。あの舞台に出演したことで、映像でのお芝居に対しても意識が少し変わったんです。
映像では、監督やカメラマンなど、スタッフのみなさんが切り取ってくださる画のなかで、役として存在していればいいという感覚だったのですが、舞台は観客の視線の誘導ができません。
全てを見られますし、物語のなかで伝えなければいけないポイントでは、テクニカルにセリフを立たせることなどを意識したほうがいい、ということを学びました。
――岩松さんの舞台で、最初に観たのは『恋する妊婦』(08年)だそうですね。
はい。映画『トウキョウソナタ』で、僕の母親役を演じられた小泉今日子さんが出演なさっていて、招待してくださったんです。僕はまだ12歳だったので、内容は難しくてほとんどわからなかったのですが(笑)、役者さんの生のパワー、舞台上でキャラクターとして情熱的に存在されている様子は観ていて楽しかったです。
僕にとっては、あれが舞台の原体験になったのかもしれません。その岩松さんに今回、お声をかけていただいて、すごく嬉しいです。
2023.05.30(火)
文=黒瀬朋子
撮影=佐藤亘
ヘアメイク=新宮利彦(VRAI)
スタイリスト=坂上真一(白山事務所)