飛ぶ鳥を落とす勢いの俳優・磯村勇斗さん。テレビドラマ、映画と縦横無尽に活躍する彼は、2023年上半期だけで9本という驚くべき出演作品数を誇る。それぞれの作品で残す独特の存在感に毎回釘付けになりながら、その多忙ぶりも気になるところ。本人にぶつけると、「働いているふうに見せるのがうまいだけ」と笑顔でかわす。いわくしんどかった時期を乗り越えた今では、それぞれの作品に心の余裕を少し持ちながら全力で取り組めるようになったという。

 最新出演作は5月19日公開の映画『最後まで行く』。大ヒットした韓国映画の同名リメイクで、岡田准一×綾野 剛×藤井道人監督という心躍る座組みのもと、磯村さんは物語の起点となる重要な役どころ・尾田創を演じた。本作に懸ける想いに加え“今、きている俳優”としての実感の有無など、磯村さんに幅広く語っていただいた。


「芯がないやつ」を演じるには

――『最後まで行く』でキーパーソンとなる尾田を演じた磯村さんです。もともと『ヤクザと家族 The Family』で藤井監督とご一緒していましたが、本作はどのような経緯で出演に至ったんでしょうか?

 藤井さんと別の作品を撮っていたときに、直接「尾田を演じてもらえないか?」とお話をいただいたんです。そのときに「尾田はヤバめで面白い役なんだよ! いっそん(磯村さんの渾名)に任せたいんだ」というようなやり取りをしていました。

 いざ脚本を読むと、尾田は作品を通してほぼ死体として出演なんですね(笑)。僕としても面白い役だなと思いましたし、何よりもやはり岡田さん、綾野さん、藤井さんの3人でつくる映画の世界に、尾田として参加させてもらえることが一番嬉しかったんです。撮影前からすごく楽しみにしていました。

――尾田についてネタバレなしで語るのはなかなか困難だとは思いますが、磯村さんはどんな準備をされましたか?

 尾田は地に足がついていない、流れるように生きている、自分の芯がないやつなんです。そうしたずっと浮いているような人物は、逆につくりこみすぎると変に印象づいてしまったり、空回ってしまう気がしていて。なので、そこまで役作りをしようとは考えず、むしろ浅い状態でやりたいな、と思って臨みました。

 僕が思うに、尾田はすごく“犬っぽい”人なんですよね。子犬系とでもいうのかな。めっちゃ強がって吠えているけれど、いざ大型犬が来るとすぐ逃げちゃうという。逃げ足が速いという面は出したいなと思っていましたし、言葉に芯がない人ということもイメージしてやっていました。

――磯村さんが楽しみにされていた岡田さんとの共演はいかがでしたか? 主に“死体”としての絡みが多かったわけですが。

2023.05.18(木)
文=赤山恭子
撮影=佐藤 亘