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 最近、クレープ専門店やクレープを提供するパティスリーが増えています。しかも、テイクアウト可能な紙で巻いたスタイルが数多く、外が心地いい初夏にぴったり。青々とした木々の緑を眺めて頬張りながら歩けば、それだけでなんだか楽しく、幸せな気持ちになります。

 そして、使われている素材も上質感にあふれ、生地も作り手のこだわりがいっぱいで、味わい、見た目ともにその進化には目を見張るほど。今、足を運ぶべきクレープのお店をご紹介しましょう。


なにもかもが新しい、クレープの在り方

 百貨店の催事でも大行列の人気を博し、クレープを愛する人たちから熱い支持を集めているクレープリー「イクアリー」。東京・駒沢の「ル パティシエ タカギ」や東京・等々力の「パティスリィ アサコ イワヤナギ」で約7年、パティシエとして腕を磨いた友納滉一さんが、2021年、妻の祐希さんとともに開いたお店です。六本木のバーを間借りして営業していた開店当初から話題を呼び、2022年に東京・渋谷の青山学院大学西門向かいにある現在の場所へと移転しました。

 まず目を引くのは、クリームやさまざまなパーツを重ねて仕上げられる、ケーキのようなスペシャルクレープ。なかでも人気なのが、「クレープ・ブリュレ」です。高温で熱したクレープマシーンに生地を流し、「トンボ」と呼ばれるT字形の道具でササッとのばして表面を香ばしく焼き上げます。その上に、クレーム・シャンティイとブリュレ、自家製キャラメル、ハチミツとスパイスでマリネしたクルミをのせ、紙で包んでスリムにくるりと巻いてスタンドへ。上にクレーム・シャンティイを絞り、ブリュレをのせれば、できあがり! 花が咲いたような愛らしい見た目にも心奪われます。

 ジャージークリームで作られたブリュレは、コクのあるカソナードで表面をキャラメリゼされていて、ミルクと卵の風味が濃厚でありつつ後口はすっきり。ひと口食べるごとに、もちもちとした風味豊かな生地の旨みとブリュレのまろやかさが混じり合い、軽快な歯触りのクルミと、深みあるクレープ屋はあってもキャラメルがアクセントに。メリハリのあるおいしさが楽しめます。

大人が満足するクレープを作りたい

 独立するならば、何かに特化したお店にしたいと考え、クレープリーを開くことにしたという友納さん。

 「それまでパティシエが作るクレープ屋はあっても、こだわりを持つ大人の人たちに向けたクレープ屋は少なく、あったとしてもテイクアウトでの提供がほとんど。イートインではフランス式の皿盛りという印象がありました。それならば、紙で巻かれていて手に持って食べるスタイルで、テイクアウトもイートインもできるクレープにして、自分が勉強してきたものを落とし込んだら面白いんじゃないかと思ったんです」と、語ります。

 卵や牛乳、小麦粉、バターをはじめ、最高品質の素材を厳選し、生クリームはコクや甘みはありつつも軽やかさを重視して数種類をブレンド。パティシエとしての技術を駆使し、細部に至るまで追求してパーツを作り、ケーキのようにバランスよく組み合わせて仕上げるのが、友納さんのこだわりです。

リピーターを惹きつける月替わりのスペシャル

 毎月のお楽しみとしてぜひ味わいたいのは、旬の食材を使って月替わりで提供される限定のスペシャルクレープ。5月には、「クレープ・トロピコ・ノア」が登場します。

 見た目もひときわ華やかで美しく、主役はフレッシュな台湾産パイナップル。これをさまざまにカットし、キウイ、パッションフルーツのソース、オレンジの葛ジュレ、ミント、ヘーゼルナッツのクレーム・シャンティイとともにクレープ生地で巻いて、初夏の香りあふれるトロピカルなひと品に。ココナッツとヘーゼルナッツにキャラメル風味のミルクチョコレートをからめたクランチがアクセントとなり、さわやかさの中にも食べ応えと満足感が感じられます。

 「クレープを食べ進めながら、物語が紡ぎ出されるように味わいが変わっていく楽しさを表現したい。メインの素材であるパイナップルを際立たせつつも、食べる場所によってはその他のパーツが味の主役となることで、面白さが出ます。パティシエとしてケーキだけでなく、パフェ作りを経験したことが勉強になりました」と、友納さん。

「ただしクレープは、グラスを通して側面からパーツが見えないのがパフェとは違うところ。クレープを巻いてから、中に入っているものと同じパーツを上にあしらい、見た目から味のイメージが湧くよう仕上げています」

シンプルだからこそ味わい深い

 友納さんこだわりのクレープ生地のおいしさをストレートに堪能するならば、ごくシンプルにバターや砂糖、はちみつだけを味つけとして合わせた、温かいクレープを。

 「バター・レモンシュガー」は、焼き上げたクレープ生地にバターを塗り、愛媛県岩城島のレモンを使った自家製のレモンペーストとカソナードを巻いたひと品。発酵バターは、フランスのMOFチーズ熟成士であるロドルフ・ル・ムニエ氏が手掛け、木製の練り機を使って伝統的な製法で作られる旨みたっぷりのバターが使われています。

 香ばしくしっかり焼き上げられた生地は、縁はパリパリ、中心部分はもちもち食感で、口溶けよく風味豊か。バターのおいしさがジュワジュワと広がっていきます。そこに、皮ごと煮込んだレモンペーストの力強くさわやかな香りときゅんとした酸味、カソナードのジャリジャリ感と甘みが絶妙なバランスでマッチ。心地よい後味がクセになります。

おなじみチョコバナナも贅沢なひと皿に

 同じく温かいクレープのなかには、定番のチョコバナナも! 香ばしく焼き上げたクレープ生地にル・ムニエの発酵バターを塗り、カソナードを振りかけてキャラメリゼしたバナナ、カカオ分70%のビターチョコレート、ヘーゼルナッツのジャンドゥーヤ、ローストしたヘーゼルナッツを間にも、上にも。食感の楽しさとビター感、奥深い風味をプラスした大人な味わいに仕上げられています。

 「目指しているのは、ものすごく奇をてらった味や構成よりも、こだわりを持った幅広いお客様に好まれるようなクレープ。接客も大切にして心地よい時間を過ごしていただき、みなさんの大切な1日1日に寄り添うお店でありたいと思っています」と、友納さん。現在の店舗も間借りでの営業となっていますが、実店舗のオープンに向けての準備も着実に進んでいるそう! 期待が膨らみます。

イクアリー

所在地 東京都渋谷区渋谷2-2-4 青山アルコープ204 
電話番号 非公開
営業時間 月~金曜日は10:00~17:00(16:00 L.O.)、土・日曜日は~19:00(18:00 L.O.)
定休日 不定休(基本的に水曜日。詳細はインスタグラム @equally_creperieで確認)
https://equally-creperie.com/
※イートインはホームページから予約受付が可能で、当日の予約なしでの来店もOK。テイクアウトは予約なしで来店を。

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2023.05.11(木)
文=瀬戸理恵子
撮影=釜谷洋史