
「かき氷は、暑い夏に食べるからおいしいんでしょ」
そんな声も聞こえてきそうですが、真のかき氷ツウがこぞって目指すのは、実は、まだ肌寒い今の季節のかき氷。
味わいといい、楽しみ方といい、暑い季節では決して体験することのできない、この季節ならではの魅力がギュギュッと詰まっています。
寒さが和らぎ、春の足音が聞こえてきたこの季節にこそ、ぜひ、かき氷店へ! 新たなおいしさとの驚きの出合いが待ち受けているはずです。
シリーズ最終回は、早くも名店の仲間入りを果たした代々木「あずきとこおり」へ!
オープンして1年。世界進出も果たす気鋭のかき氷専門店

2022年1月、東京・代々木にオープンした「あずきとこおり」は、ミシュランの2つ星に輝くフレンチレストラン「フロリレージュ」で6年間パティシエを務めた堀尾美穂さんが開いたかき氷専門店。その味わいに、日本のみならず海外からも注目が集まっています。
デザートか前菜か。赤い果実にチーズのニュアンスも

レストラン出身の堀尾さんらしく、まるでデザートのような、はたまた前菜のような洗練された味わいを楽しめるのが「苺とトマト」のかき氷です。氷は、栃木県日光市「松月氷室」の天然氷を使い、羽のように薄く削って極力押さえず、ふわふわと。「口に入れると綿あめみたいにふんわり溶けていく感触を楽しんでいただきたいと思います」と、堀尾さん。

その上に、煮込んでジャムにしたイチゴとフレッシュなイチゴを合わせてミキサーにかけたソースをかけ、レアチーズ(クリームチーズのエスプーマ)とほぐしたブッラータチーズ、オリーブオイル、トマトのゼリーを潜ませ、チーズのクランブルとマルドンの塩をアクセントに。さらにその上に氷を削り、砂糖不使用のトマトソース、リコッタチーズとイチゴのサラダを重ねて、再び氷を削ります。そしてトップには、トマトソースとオリーブオイル、レアチーズを重ね、マイクロトマトを愛らしく。
食べてみると、フレッシュ感あふれるトマトと青みのあるオリーブオイル、チーズのミルキーさやコクが混じり合い、まるでとびきりおいしいトマトのサラダを味わうかのよう! 途中で現れるチーズのクランブルやブッラータチーズが、食感の変化をもたらします。さらに食べ進めていくと甘酸っぱいイチゴの風味が増していき、最後はみずみずしさあふれるデザートのような余韻。ひと皿で多彩な表情と変化が楽しめて、ぜいたくな満足感に包まれます。

「イメージしたのは、カプレーゼです。春に向かうこの季節においしいイチゴとトマトで、この時期ならではのちょっとさわやかなかき氷をつくりたいと思いました。青臭いトマトから始まって、最後はイチゴの甘みで終わるように組み立て、統一感を持たせつつ、いろいろな食感や味を混ざりすぎないように重ねています。そのほうが口の中で遊びがあって楽しいと思うから」と、堀尾さん。
ブッラータチーズは、スノーボードをしによく訪れていた群馬県・川場村にある「KAWABA CHEESE」から。「自分が知っている場所や生産者さんの食材を使うと、気持ちが乗りやすいし、それでお客さんが喜んでくれるのを見てうれしくなります。そうしたリアクションがまたSNSなどを通じて生産者さんにも届くと思いますし、そうやって生産者と食べる人をつなげていきたいな、と思っています」。
2023.03.21(火)
文=瀬戸理恵子
撮影=榎本麻美