今も思い出す若い頃の失敗

――前作ではドーマスがボッジを裏切り突き落とすという衝撃の展開がありました。そのことを悔やみ、その後はボッジや王国に忠誠を尽くす決心をしますが、江口さんが声優として活動する中で忘れられない失敗はありますか。

 失敗はたくさんありましたが、新人の頃のお仕事は今でも思い出しますね。ゲーム作品の収録だったと思うのですが、20ぐらいのキャラクターを演じ分けることになったんです。少年、青年、中年といろんな役を振られたんですが、まだ経験不足で引き出しもないから無我夢中でやって。最後の最後に与えられた役が、そのゲームのメインキャラクター。「ナレーションのように話すんだけど感情はある。でも機械的に」という正反対なディレクションを受けて、訳がわからなくなって(笑)。何回かトライしたんですが満足してもらえるものにならなくて、「もう別の人にやってもらいます」と言われたときは、悔しくて泣きましたね。

――新人にとってはハードルが高いお仕事ですね……。

 今思うとすごく理不尽だなとは思うんですが、それでも提示されたものに答えを出して立ち向かっていくのがプロなんですよね。そのときに、どんなに無茶な指示があったとしても、それを噛み砕いて自分のものにしていく力が必要だなと感じましたし、意志が固まるきっかけになったなとは思います。

――その後は、たとえ無理難題でも、自分なりに何か提示するように?

 そうですね。もちろんそこまで極端なことは滅多にないですし、みなさんもっとわかりやすく伝えてくださいます。作品ってお互いに話し合いながら作っていくものですしね。新人にそれだけの数を演じさせるって、今思うと大変な現場だったんだなと思いますけど(笑)。

心が自然に動く作品を演じられる喜び

――常にたくさんの作品に携わっている声優さんですが、その中で『王様ランキング』を通して江口さんはどんな発見や学びがありましたか。

 僕たち声優は事前にどう演じるかを考えてからアフレコ現場に行くわけですが、『王様ランキング』のように心が自然に動く作品だと、台本を読むだけでセリフが流れるように出てくるんですよね。現場の誰もが同じように感じているので、周囲の方たちと同じ空気感に包まれながらお芝居をするのはすごく気持ちいいです。一緒にお芝居をすることで、なるほどと腑に落ちる部分もある。絡む人が増えれば増えるほど、自分が予期しない化学反応も起こったりするから、一緒にお芝居をするのは単純に楽しいですね。もともと思っていたことではありますが、この作品に出会えて改めてそんなことを感じましたね。本当にありがたいなと思います。

――ところで江口さんの野菜嫌いは声優ファンの間では有名ですが、最近は野菜を摂っていますか? カレーとして食べたり、好みのドレッシングを作ったりと野菜を摂る努力はされてきましたし、無理なときも野菜ジュースぐらいは飲んでいたと思いますが。

 野菜ジュース、最近飲んでないですね。やばいです。いまや僕はサプリで生きてます。サラダも全然食べてないなぁ。サラダって食べるのがめんどくさいから食べなくなっちゃったんですよ。というか最近は食べる時に口を動かすことすらめんどくさい(笑)。料理はするんですけど、作ったらもう満足しちゃうんです。あの工程が好きなんでしょうね。ちょっと食べたら後は冷蔵庫に入れちゃいます。

――食べることすら興味がなくなってしまったとは。

 いやー、こればっかりはどうしようもなくて。今のところは興味がないですね。あはは。

江口拓也(えぐち・たくや)

5月22日生まれ、茨城県出身。「機動戦士ガンダムAGE」(アセム・アスノ)役、「やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。」(比企谷八幡)、「俺物語!!」(剛田猛男)などで注目を集める。木村良平、代永翼と共に音楽ユニット「Trignal」として活動中。「虹色デイズ」(松永智也)、「アイドリッシュセブン」(六弥ナギ)、「東京リベンジャーズ」(半間修二)、『バキ』(花山薫)、「SPY×FAMILY」(ロイド・フォージャー)など出演作多数。

「王様ランキング 勇気の宝箱」

2023年4月13日(木)よりフジテレビ“ノイタミナ”ほかにて毎週木曜日24:55~放送中。

 生まれつき耳が聞こえず言葉も話せず、短剣も触れないほど非力な王子・ボッジがカゲと出会い、勇気を持って冒険に挑む物語。剣の師匠・デスパーやドーマスを始めとするボッス王国四天王、義母であり王妃のヒリング、第二王子ダイダなど周囲の人々との関わりの中で成長していく。今作ではボッジの仲間たちの知られざる勇気の物語が描かれている。
https://osama-ranking-treasurechest.com/onair/

2023.05.03(水)
文=大曲智子
写真=鈴木七絵