松岡茉優さんと宮本エリアナさんW主演による連続「連続ドラマW フェンス」がWOWOWで放送・配信中です。松岡さん演じる東京から来た雑誌ライター“キー”と、宮本さん演じる沖縄で生まれ育ったブラックミックス“桜”がバディとなり、ある性的暴行事件の真相を追う本作。

 2022年に本土復帰50年を迎え、今も世界最大規模の米軍基地を抱える沖縄の現在に目を向けた物語を脚本家・野木亜紀子さんはどういう思いで執筆したのか。お話を伺いました。

奇跡的な座組が整っているのであれば、やるべきではないか

――「沖縄が舞台のクライムサスペンスを作りませんか」という本作の打診があった際に、「とてもじゃないけど背負えない」と一度断ったと伺いました。そこから制作実現に向けて野木さんの心を突き動かしたものはなんだったのでしょうか。

 今作のように正面から沖縄が抱える問題を扱う作品は、絶対に私自身からは出ない企画です。たぶん日本中を探しても、この企画のドラマをつくれるのはオファーをしてくれたドラマプロデューサーの北野さんしかいないと思います。

 北野さんはかつて報道記者として沖縄に住んでいた方なんです。しかも、民放の地上波ではなかなか難しい題材であるというなかで、WOWOWのプロデューサーで普天間出身の高江洲さんがうちでやりませんかと声をかけてくれた。

 2人のプロデューサーによって作品制作の現実味が帯びてきたとき、これを断ったら今後私はこういうドラマを書くことはないのだろうなという思いが湧きました。せっかくこの奇跡的な座組が整っているのであれば、やるべきではないか。そう思い、向き合うことにしました。

膨大な資料と100人以上に行った取材

――もともと本作のテーマである沖縄についてはどれくらい関心があったのでしょうか。

 一般常識として知られる範囲内だと思います。普天間飛行場の辺野古移設とか、知事が玉城デニーさんだとか、本土のニュースで流れてくる程度のことしか知らなかったです。

――では脚本執筆にあたり取材を開始されたわけですね。具体的にどのような方にお話を聞かれたのでしょうか。

 本当に何から何まで取材をしました。最初は米軍基地の現状と日米地位協定について聞くために大学の先生にお会いしたところからはじまり、元県警の方、実際に米兵事件を扱っている弁護士関係の方、それからブラックミックスをはじめとするバイレイシャルの方、基地で働いている方、米軍人と結婚している方、精神科や産婦人科の先生、それから市井の方々まで、会える限りの人に会って聞いていきました。

 全部で100人以上に話を聞いたので、1人につきかなりの取材メモが増えていくんです。膨大な資料になりました。過去最高の人数に取材したと思います。

――100人に取材……驚きです。相当の覚悟で今作の主題に望まれたということでしょうか。

 覚悟というより、必要だったからです。聞かないとわからないことだらけなので。今回の取材は毎日休みなしで10日間、朝から晩までというのを3回やりました。さらに数日、自主的に足を運んだり。取材した先で新しい話が出てきたりすると、これも聞かなきゃダメだということも追加で出てきます。さらに人のつながりでこういう友達がいるという話が出たら、じゃあその人も紹介してくださいとどんどん膨れ上がってきて。

――取材前にもプロデューサー陣から資料の共有はあったのでしょうか。

 基地問題を中心に、最低限これを読んでくださいという書籍と映像資料を北野さんがたくさん送ってくれました。ものすごい宿題量で、毎日追われている感じでしたね。復帰50周年にまつわる番組も、見られるものはすべて見たと思います。

2023.04.07(金)
文=綿貫大介