イシデ電『ポッケの旅支度』

 ペットを飼えば、誰もが避けて通れない看取り。著者は15年前に自宅に上がり込んで来た猫にポッケと名付けて家族として迎えた。

 ポッケに病気が見つかったときに蘇ったのは、かつての愛猫こぜをちゃんと見送れなかったことや、知識不足でつらい思いをさせたのではないかという後悔。

 二度と同じ失敗はすまいと、残された時間でどうすれば寄り添えるのかを考えていく。

 猫マンガでは、死は案外よく扱われる題材で、もちろん哀しい。だが本書では、飼い主である著者が、ポッケが日ごとに衰弱していくさまに泣いてばかりではなく、作家として愛猫の死を俯瞰してしまうところも描かれている。

 本当に死んでしまう痙攣の瞬間。温かく柔らかな命が、固くなってモノになってしまったと感じた瞬間。お葬式を出して、その様子を資料のためにスマホで撮りまくる瞬間など。

 ただありのままに伝えてくれるすべてが、読者の胸に深く突き刺さる。もう1匹の愛猫ピップもときどき活躍。

ポッケの旅支度

定価 1,320円(税込)
KADOKAWA
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谷口奈津子『うちの猫は仲が悪い』

 マンガ家・真造圭伍さんの飼い猫フミは、真造さんには甘えるが、彼と別居婚をしている本書の著者・谷口奈津子さんにはなかなかなつかない。そんな矢先、子猫のウニが現れ、真造さんがメロメロに。フミの気持ちも考えろと改心させたのは他ならぬ谷口さんだ。

 確かに、2匹は性格も体質も人間との接し方も違っている。複数飼いしている飼い主にとっては猫同士の相性はかなり頭の痛い悩みだろうが、よくよく読めば2匹は寄り添って寝たりもして、言うほど仲は悪くないのかも。真造さんが悪性リンパ腫で入院することになり、猫シッター役を果たすことになった谷口さんが、生活の変化を感じさせないようにあの手この手で奮闘。谷口さんの献身ぶりに拍手喝采したくなる。

 実際、大切な人が病気になって不安な気持ちが膨らむとき、猫たちの変わらぬ暮らしぶりは大いなる慰めになるのではないだろうか。〈勝手な奴らだ/でもそれでいい/猫は悩まず/正しいとか間違ってるだの考えず/幸せでいてほしいものだ〉というメッセージに、猫愛が詰まっている。

うちの猫は仲が悪い

定価 1,210円(税込)
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「とにもかくにも愛らしい笑えて癒される猫漫画6選(猫の視点編)」を見る

2023.02.28(火)
文=三浦天紗子