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死体の視点ショット

――映像もとても個性的で、死体の視点のショットなど、目を見張るような点があり、素晴らしいです。

 死体の視点のショットは、犠牲者は自分を殺した相手を見ていた、ということ。それは刑事が、絶対に犯人を突き止める、という決意の象徴でもあるんです。そして、後半には魚の目からのショットや、iPhoneのカメラの視点もあります。ソレのiPhoneを覗き込むとき、刑事ヘジュンは、彼女が自分を見つめているような気持ちになるんです。

――撮影監督がずっと組んでいたチョン・ジョンフンさんから、キム・ジヨンさんに変わりました。

 チョン・ジョンフンとは『オールド・ボーイ』から『お嬢さん』までずっと一緒でした。しかし彼は今アメリカで売れっ子になってしまって、スケジュールが合わなくなってしまったんです。さらに英国で撮ったドラマ『リトル・ドラマー・ガール 愛を演じるスパイ』で組んだキム・ウヒョンも多忙で、今回初めてキム・ジヨンにお願いしたんです。彼は『甘い人生』などキム・ジウン監督と組んできたベテランで、優秀な撮影監督です。

 初めて組むので、私がこの映画に望むものを伝えるために、ミケランジェロ・アントニオーニの『赤い砂漠』や、ヴィスコンティ、ジャン=ピエール・メルヴィルらの古い映画を観ておいてほしい、とお願いしました。普段はそんな指示はしないんですが、時間もなかったので。でもおかげでとてもうまくいきました。

――ちなみに韓国映画では、Galaxy​など韓国のスマホが出てくるのが一般的ですが、今回主人公たちがiPhoneを使っているのは何かこだわりがあるのでしょうか?

 いいえ、iPhoneに特別なこだわりはないんです。ただ小道具として、提供してもらいやすかった、というだけなんですよ(笑)。今回、リアリティのあるコミュニケーション・ツールとして、スマホは欠かせないと思いました。恋愛関係にある二人が、スマホで繋がっていないなんて、現実にはあり得ませんからね。スマホだけに限らず、現代社会というものを描く上でリアルなツールを使うことは大切ですから。また、あの二人が同じメーカーのスマホを使うことは重要だと思いましたし、車も同じ車種に乗っています。二人は同じ種類の人間なんだということを見せたかったんです。

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パク・チャヌク

1963年、韓国ソウル生まれ。大学在学中から映画評論家として活動し、1992年の『月は…太陽が見る夢』で監督デビュー。ポリティカル・サスペンス『JSA』(2000)は当時の韓国歴代興収記録を更新し、日本でも大ヒット。主な作品に『復讐者に憐れみを』(02)、『オールド・ボーイ』(03)、『親切なクムジャさん』(05)、『サイボーグでも大丈夫』(06)、『渇き』(09)、『お嬢さん』(16)など。『イノセント・ガーデン』(13)ではハリウッド進出を果たした。

映画『別れる決心』

海と山の街、釜山。男性が山頂から転落死した事件を追う刑事ヘジュン(パク・ヘイル)は、被害者の妻ソレ(タン・ウェイ)に疑いを抱く。取り調べが進む中、いつしかヘジュンはソレに惹かれ、彼女もまたへジュンに特別な想いを抱き始める。やがてソレの夫殺しの容疑は晴れるが、それは“愛の迷路”のはじまりだった。

監督:パク・チャヌク
脚本:チョン・ソギョン、パク・チャヌク
出演:パク・ヘイル、タン・ウェイ、イ・ジョンヒョン、コ・ギョンピョ
提供:ハピネットファントム・スタジオ、WOWOW
配給:ハピネットファントム・スタジオ
https://happinet-phantom.com/wakare-movie/

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2023.02.17(金)
文=石津文子