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 昨年のカンヌ映画祭で監督賞を受賞した、『別れる決心』のパク・チャヌク監督。『オールド・ボーイ』や『お嬢さん』などバイオレンスや性愛シーンが注目されることが多いが、今回は直接的な描き方はしていない。しかし、人間の奥底に潜む暴力性がじんわりと伝わってくるミステリアスなロマンス映画となっている。


男は再会した女になぜ美味しくないものを?

――今回、暴力シーンや性愛シーンを避けつつも、非常に濃密な映画になっていますね。

 グラフィックとして直接的な表現はしていませんが、人間というのは、バイオレンスもエロチシズムも内包しているものなんですね。観客は映画を見ていて、登場人物の劇的な感情の変化に気づくでしょう。そこに注目してもらうため、あえて直接的な表現を避けたんです。

――前回、カンヌで話題を呼んだ『お嬢さん』では濃厚な性愛シーンがありましたが、『別れる決心』の二人は濃密に愛し合っていても、一見プラトニックな関係を保っているように見えます。でも、映画に描かれていないところで、二人が性的な関係を持っていたようにも思えるのですが。

 確かに、セックス・シーンは今回全く撮っていません。でも観客によっては、『いや、あの二人は大人だし、きっと肉体関係があったはずだよ』と思うでしょうし、『ソレは証拠を隠滅するために、刑事を眠らせたんだよ』って思う人もいるでしょう。意見が分かれるでしょうね。ただ、一つ言えるのは、山の上で二人は口づけをする。性的な接触はあるんですね。

――食事のシーンにとてもセクシュアルな要素を感じます。

 国によって違うかもしれませんが、韓国では、警察での取り調べ中に食事を出すんです。金額の上限は決まっているので、正直大したものは出てきません。でもこの映画では、刑事ヘジュンは容疑者のソレに上等な寿司を出すんですね。つまり彼が自分のポケットマネーを出して彼女に食べさせているということが、韓国の観客にはわかりますし、彼がソレに特別な興味を持っていることもわかる。部下の刑事スワン(コ・ギョンピョ)が、『いつも俺たちには経費を使いすぎだって文句を言うくせに!』って怒るのも、無理はないんですね(笑)。

 ちなみに二人がイポの町で再会して、屋台の軽食を食べますが、あれは私が食べた中で最悪のスナックでしたよ(笑)。あのシーンで、ソレはまた美味しいものを食べさせてくれると期待していたから、がっかりする。でもあそこではヘジュンは、意図的に美味しくないものを選んでいるんですね。

――この映画は愛についてのミステリーだと思います。では、監督は“愛”をどんなふうに定義されますか?

 私の人生は、私の作る映画とは全然違っているんです。監督の中には映画を通して自分の人生を語る人もいますが、私はそうじゃないんですね。でもあえて言えば、“愛”とは二人の人間の関係性であり、人は愛を通して自分のあり方を示すものだと思います。そして生物としての人間という種の特徴は、愛があるときに如実に現れるものなんです。

2023.02.17(金)
文=石津文子