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 帰ってきた、カンヌ国際映画祭追っかけ日記! え? いつの話、と言われれば、2022年の5月である。『別れる決心』で、韓国のパク・チャヌクが監督賞を受賞したのだ。めでたいことだが、パク・チャヌクはすでに2004年に『オールド・ボーイ』でグランプリ、2009年には『渇き』で審査員賞を受賞しているので、『別れる決心』にはマダムアヤコ的には最高賞パルムドールをあげたかった! さらに言えば、オスカーにもノミネートされるべきだった大傑作なのである(今年のオスカーはノミネーション段階で番狂わせがかなりあって、選出方式に疑問が呈されている。まあこれは別の話)。

 『別れる決心』は釜山を舞台に、妻のいる刑事と、夫殺しの容疑者が惹かれ合う、ミステリー風味のラブストーリー。とはいえ全く一筋縄ではいかないユーモアや仕掛けがちりばめられ、奇妙な魅力に溢れている。特に、あまりに独創的な人の死に方は想像を絶しますよ。まあマダムアヤコはあまりに驚きすぎて、カンヌの会場で大笑いしちゃったのだが、こんなことを思いつく巨匠パク・チャヌクの頭の中は一体、どうなっているのだろうか?


今まで当て書きしたことはなかった

――パク・ヘイル(『群山』、『殺人の追憶』)が扮する不眠症の刑事ヘジュンと、タン・ウェイ(『ラスト、コーション』)が演じる容疑者ソレの関係は、とても不思議ですね。

 刑事だけでなく、時には容疑者である彼女の方が質問をする。視線を交わし、一緒に食事をし、テーブルを片付ける。取り調べ室で、この刑事は彼女に歯ブラシも渡します。彼のそうした行為から、とても親切な刑事であることを示しています。そして刑事だから、彼女をずっと見張っているわけですが、その行為は嫌がらせとも言えます。でも、彼に見張られているおかげで、彼女はとても守られているように感じているんです。

――韓国人と結婚し、韓国で暮らす中国出身のソレという設定は、タン・ウェイを念頭に置いて書かれたものだと思いますが、ヘジュンという刑事役もパク・ヘイルを想定して書かれたんでしょうか? 二人ともあまりに完璧でした。

 確かに、このソレという女性の役はもちろんタン・ウェイに演じてもらうことが大前提でしたし、彼女にしか出来ない役です(タン・ウェイは『レイトオータム』で組んだ韓国の監督キム・テヨンと結婚している)。最初から彼女には声をかけていましたが、今回はパク・ヘイルがかなり早い段階からプロジェクトに参加してくれたので、刑事役も彼が演じる前提で書き進めていきました。

 実は私は今まで、役者を想定して脚本を書くということはしませんでした。たとえば、イ・ビョンホンを念頭に書いた役を彼に断られてしまったら、もう映画が作れなくなってしまうでしょう? だからいつもは当て書きはしないんですよ。本当に今回は例外中の例外でした。

2023.02.17(金)
文=石津文子