この記事の連載
- パク・チャヌク インタビュー #1
- パク・チャヌク インタビュー #2
登山のシーンではマーラーの交響曲第5番が
――お互いに配偶者がいる男女のラブストーリーにしたのは、何かきっかけがあったのでしょうか?
まず映画を作るにあたり、インスピレーションの素が二つありました。一つは、とても慎重で、心優しい刑事の話。もう一つは、『霧』(アンゲ)という歌をモチーフにした恋愛映画。どちらも霧の街を舞台したいなとは思っていたんですが、当初は別々の作品として考えていたんです。
『霧』は韓国ではとても人気のある歌で、女性が歌うバージョンと、男性のバージョンがあるんです。その男女それぞれのバージョンを使って恋愛映画を作りたいなと思い、脚本家のチョン・ソギョンに話したところ、二つのアイデアを合わせてみてはどうか、と彼女に言われて、現在の形になりました。
――とても耳に残る歌ですね。この歌は、1967年に当時の大スター、シン・ソンイル(『晩秋』)とユン・ジョンヒ(『ポエトリー アグネスの詩』)が主演した映画『霧』(監督キム・スヨン)でも、印象的に使われています。私は2019年に韓国の映画祭で修復版を観たのですが、あの映画も不倫というか、愛の不条理のお話でした。
そもそも、あの映画の主題歌として書かれたのが、『霧』なんですよ。あの映画は素晴らしいし大好きですが、私が観たのは脚本を書いた後だったので、映画そのものから何か影響を受けたわけではないんです。あくまで、この歌がインスピレーションの素になっています。歌っていたのは女性歌手のチョン・フニで、彼女のデビュー曲として大ヒットし、スターになったんですね。その後も色々な人にカバーされていて、男性バージョンもあるので、エンディングでは両方使ったんです。
センチメンタルなメロディが特徴の『霧』は、BoAが歌ったバージョンがカン・ドンウォン主演の『M』の主題歌にもなっていたので、聴いたことがある人もいるかもしれない。パク・チャヌクは音楽好きとしても有名で、『別れる決心』ではマーラーも象徴的に使われている。
組んでいた撮影監督がアメリカで売れっ子に
――監督はクラシック音楽の愛好家としても知られていますが、登山のシーンで、マーラーの交響曲第5番が使われていました。登山の最中は第4楽章を聴き、その後頂上で第5楽章を聴くというのは、面白いアイデアですね。
私は長いこと、この曲を使うことを避けてきたんです。ルキノ・ヴィスコンティの『ベニスに死す』であまりに有名ですから。でも、事件が起きるあの山に登るには30分かかる。その長さにピッタリはまる曲は何だろうか。悩んだ末、結局のところマーラーのあの曲しか思い当たらなかったんです。でもあの第4楽章を使うと、『ベニスに死す』の真似だと思われてしまう。だから避けていたのですが、最終的には諦めてマーラーを使うことにしました。ヴィスコンティしかあの曲を使ってはいけないという法律があるわけでもないですしね(笑)。
2023.02.17(金)
文=石津文子