■矢沢永吉『時間よ止まれ』(1978年)/資生堂

 先に述べたように、資生堂とカネボウによるCM対決の盛り上がりが、日本の広告界にCMタイアップという技法を根付かせることとなりました。

 資生堂とカネボウという、当時の化粧品マーケットを主導していた2社が、タイアップソングを使った季節ごとのキャンペーンCMを大量に投下しあう。街の化粧品店にはポスターが大きく貼り出され、またテレビやラジオでタイアップソングが何度もオンエアされ、キャンペーン全体が大きな話題となっていく――CMと音楽の美しいマリアージュ!

 なかでも、1978年の夏キャンペーン対決は、とっても盛り上がりました。資生堂は、キャロルからソロとなった矢沢永吉の『時間よ止まれ』。カネボウは、男女4人組コーラスグループ=サーカスの『Mr.サマータイム』。

 とりわけ『時間よ止まれ』は、矢沢永吉を時代のカリスマとして輝かせる決定打になったのです。併せてこの年、自著『成りあがり』(小学館)も大ヒットし、矢沢は長者番付(歌手部門)の1位に。

 キャロル時代のロックンロール・イメージを一掃するようなバラード。バックの演奏にはイエロー・マジック・オーケストラ(YMO)結成直前の高橋幸宏と坂本龍一が参加。資生堂の「アクエアビューティケイク」のCMで、コピーは曲名と連動して「時間よ止まれ、まぶしい肌に。」。あらゆる意味で、1978年の夏を思い出させる1曲です。

2023.02.05(日)
文=スージー鈴木