ショパンコンクールでの優勝が背中を押してくれた

――2022年12月5日に東京オペラシティで行われたリサイタルでは、ブルースさんの演奏に満席の聴衆が熱狂していました。ご自身でリサイタルを振り返って、どう感じていますか?

 それを僕に聞いても、ここがよくなかった、もっとこうしたかったというネガティブなコメントしか出てきませんよ(笑)。ステージで重要なのは、弾きながらエネルギーを感じていること。そうしてその場で自発的な音楽を生み出していると常に何かが起きるので、全てをコントロールすることはできないんです。でも、聴衆がイリュージョンにかかっていて楽しんでくれていたらいいなと願っています。

――ショパンコンクールから1年、優勝してやはり人生は変わりましたか?

 もちろん変わりました。僕の場合はコンクール以前、演奏活動はほぼしていない学生でしたから、急にコンサートピアニストの生活に飛び込んでしまった感覚がありました。優勝直後は不安でしたね。自分の内面や演奏は変わっていないのに、優勝した途端、みんなが僕の演奏をすばらしいと言い始めるわけですから。

 でも大切なのは、自分を知り、正しい方向を見つけて進み続けることです。コンクールは、空に飛び立つためのスタート地点です。どこに向かって飛ぶかは、経験から得た知識や感性に基づいて自分で決めなくてはいけません。

 一つ言えるのは、優勝が、残りの人生ずっと音楽をしていく方向に僕の背中を押してくれたということ。それまではピアノをずっと続けるべきか、まだ確信がありませんでした。

 ピアノというのは年齢を重ねながら極めていく分野です。経験を積むのはプラスになることばかりで、マイナスにはならない、つまり年齢による限界がほぼありません。とても幸運ですね。

2023.01.31(火)
文=高坂はる香
撮影=佐藤 亘