一緒に演奏するのが長らくの夢だったという2作品とは

――先日のリサイタルのアンコールでは、2月のプログラムにも入っているラモーの小品も弾いてくださいましたが、とても新鮮でエキサイティングなものでした。バロック作品はお好きですか?

 大好きです。一般にバロック時代の作曲家として知られているのは、J.S.バッハやD.スカルラッティくらいで、フレンチ・バロックはあまり演奏される機会がありません。でもラモーは、鍵盤音楽の歴史を継承する多くの作曲家をインスパイアした人物であり、バロックのなかで最もヴィルトゥオジティを求める作品を書いたと僕は思います。

 クープランも好きですが、彼の作品は組曲をセットで演奏する方が好ましいですよね。でもラモーは、好きな小品を選んで新しい組み合わせをつくり、いわば自分のプレイリストとして提案することができます。リサイタルの初めにこれを弾くと、空気もリフレッシュされます。

――モーツァルトのオペラ「ドン・ジョヴァンニ」をモチーフにショパンが書いた「“お手をどうぞ”の主題による変奏曲」は、コンクールでも演奏して評価されたレパートリーです。リサイタルでは加えて、同オペラのリストによるトランスクリプションも取り上げます。二人は同時代に生き、同じオペラに着想を得て作品を書いたのに、こんなにも違った音楽になっておもしろいですね。

 作曲家の性質の違いによるものですね。ショパンのほうは、モーツァルトの旋律を変奏曲のための素材として使っているので、ショパンらしい要素がより感じられると思います。彼がこの曲に着手したのはティーンエイジャーの頃ですから、純粋でエレガントでチャーミング、でも燃えるようなパッションが感じられます。

 リストの作品にももちろんリストらしさは感じられますが、よりオペラの音楽に忠実にいろいろなテーマが用いられ、ドラマにフォーカスし、官能的に書かれています。

 僕はとにかくオペラ「ドン・ジョヴァンニ」が大好きなので、この2作品を一緒に演奏することが長らくの夢だったのです。だから新しいシーズンのプログラムにすぐに取り入れました。

2023.01.31(火)
文=高坂はる香
撮影=佐藤 亘