「レーシングカートは中毒みたいなもの(笑)」

――子供の頃からいろいろな趣味を持ち、ピアノもその一つだったそうですね。

 はい、水泳にも真剣に取り組んでいたのですが、15歳頃、ピアノと水泳どちらかを選ばなくてはならず、ピアノを選びました。

 他にも、父が画家だった影響で、視覚芸術とその歴史には関心がありました。ピアノを始めたのは早くありませんでしたし、練習を強要されたこともないので、子供らしい自由を失った感覚も、情熱を過剰に消耗することもありませんでした。

 僕は昔から、一つのことに努力を注ぎ込むのが好きではありませんでした。バランスをとりながら複数のことを続けたほうが、より“酸素”を取り入れられるというか、広い視野を保てる感覚があります。そしてそれが結果的にお互いの探究を助けるのです。

 大人になってからはカートレースが趣味で、中国には自分たちのレーシングチームがあります。この前は、ポーランドでフォーミュラ1のドライバーのトレーニングセッションを受けました。アルファ ロメオに乗ることができて、とっても楽しかった!

――レーシングカートの経験は音楽に影響がありますか?

 これはシンプルに好きでやっているだけで、音楽のために何かという意識はありません。でも結果的に何かしら学んでいる部分はあるかもしれません。モータースポーツと音楽というつながりはなかなかないので、おもしろいと思いますし。

 ただ、一部の人の目には全く逆に映るかもしれませんね……本番前に怪我をするかもしれないマイナスのことでしかないって! 実際、コンサートのため次々旅をしているので、新しい街でレーシングカートに乗る時間がとれるのはコンサート前の日程だけなんです。心配させないよう、コンサートの主催者には言わないでおくしかないですね(笑)。

 でも、モータースポーツが好きな音楽家はわりといるんですよ。指揮者のカラヤンやピアニストのミケランジェリなどは、運転好きで有名です。

――ギリギリを攻めるようなエキサイティングな表現もブルースさんの魅力の一つですが、その勇敢なマインドはレースで育てられているのでは?

 ああ、そうかもね! 実感はなかったですけれど(笑)。集中し、限界まで追い込んでいくことが必要ですから。ただ体にはよくないですよね。実を言うと、レースのあとは身体中が痛むんですよ。でももう、中毒みたいなものだから仕方ないんです(笑)。

2023.01.31(火)
文=高坂はる香
撮影=佐藤 亘