演劇を続けていくことでおもしろくなることに感動

 ミュージカル界のスターであるだけでなく、ストレートプレイやコンサート、バラエティ番組のMCなど、八面六臂の活躍をしている井上芳雄さん。このたび、ケラリーノ・サンドロヴィッチ(以下KERA)さん作・演出の舞台『しびれ雲』に出演する。昭和10年代の日本の架空の島を舞台にした物語。小津安二郎やアキ・カウリスマキのような、細やかな日常が淡々と描かれる作品になりそうだ。

 井上さんは、KERA作品には、2017年の『陥没』で初参加、2020年にチェーホフ作 KERA演出の『桜の園』に出演予定だったが、新型コロナウイルス感染拡大のため、やむなく中止に。3度目のタッグについて、俳優としての心意気について語ってもらった。

――KERAさんとは『陥没』で初タッグを組まれて、『桜の園』はお稽古までされたのにコロナ禍で残念ながら中止に。今回、『しびれ雲』のオファーを受けてどう思われましたか?

 すごく嬉しかったです。役者にとって、お仕事をご一緒したあとに、またお声をかけていただくというのは、一番の評価だと思います。『陥没』まではKERAさんのことを詳しくは知らなかったのですが、すごい演劇人だと改めて思ったので、以来、機会があれば、ぜひまたやらせていただきたいと思っていました。

――KERAさんのどういうところにすごさを感じられましたか?

 KERAさんは、音楽活動と並行して、演劇を40年近くも続けていらっしゃる。毎回、狙いや作風を変えて、基本的に新作を産み続けていて、しかもそれが面白いというのはやはりすごいことだと思います。演劇を続けていけば、こんなに面白くなる可能性があるというのは、希望というか、感動しますよね。


――今回は"突然島に現れた謎の男"役だそうですね。

 はい。KERAさんは、稽古をしながら台本を書き進めていかれるので、全貌はまだわからず(笑)。昭和10年代のお話なので、あの時代ならではのゆっくりしたテンポなどを体現できればと思っています。

――井上さんは蜷川幸雄さんや栗山民也さん、デヴィッド・ルヴォーさんら、さまざまな演出家のストレートプレイに出演されています。KERAさんの舞台は、そのなかでも笑いが重要で、セリフの間合いや声のトーンなど、絶妙なところをつかないと成立しないように想像しますが、いかがですか?

 おっしゃる通りです。同じセリフでも、断言するか、疑問っぽく言ってみるかで全然違う印象になります。やっぱり、KERAさんに言われた通りの言い方をすると、ものすごくウケるんです。ご自身で書かれたものを演出されているというのは、すごく大きいと思います。

 僕は笑いが専門ではないので、詳しくはわからないですが(笑)、バラエティー番組でその場で対面した人と生み出すトークの笑いとは真逆な感じがします。ものすごく構築されたロジカルな笑い。稽古を積み重ねて作る笑い。仕組みはわからないけれど、法則みたいなものがあるのかもしれません。そこが面白いですね。

2022.11.06(日)
文=黒瀬朋子
ヘアメイク=川端富生
スタイリスト=吉田ナオキ
撮影=平松市聖