「役者はどんなことも栄養にできる職業」

――井上さんは、最近では橋爪 功さんと朗読劇をなさったり、天童よしみさんや山内惠介さんとコンサートを開かれたり、バラエティ番組の司会も。お仕事の幅を広げていらっしゃるのは、俳優のお仕事にフィードバックさせたいからですか?

 そういう思いはありますね。役者はどんなことも栄養にできる職業ですから。あと、コロナ禍になり、ひとつのことだけをするのはリスキーな時代になってきたと思います。気持ち的にもいろんなことをしていたほうが、僕の性に合っているみたいです。

――新たなものに対して好奇心が強いタイプなんですか?

 特別強いとは思いませんが、負けず嫌いというか、うまくできないことに対して「なぜできないんだろう」とは考えますね。できない理由、できるようになる方法を知りたくなる。すぐにはわからなくても、それを見つけていきたいと思うタイプです。

――ミュージカル俳優に憧れて、20歳のときに東京藝術大学在学中に『エリザベート』のルドルフ役で華やかにデビュー。でも、その後、井上ひさしさんの作品や蜷川幸雄さんの演出作品で、すごく苦労なさったことをエッセイ『ミュージカル俳優という仕事』に綴られていて、ここまで辛かったことを言葉にされるなんて、強い方だなと思いました。

 心の傷が癒えてから言葉にしていますからね。若いときは経験も実力もないので、大変だったのは当然だろうと思います。

 でも、僕は苦労をしたくないわけでも、大変な思いをしたくないわけでもないんですよね。目的は「いい作品を作りたい」ということだから、その過程で苦しんだとしても、そこはあまり問題じゃない。積極的に苦労したいわけではないけれど、苦労を避けることが目的ではないんだよな、といつも思います。

――お芝居には正解がありませんし、批評が必ずしも正しいわけでも、動員数がすべてとも言い切れません。何をもって井上さんのなかではOKとしているのですか?

 なんでしょうね? その曖昧なところがいいのかもしれませんね。言葉が適切かわかりませんが、基本的に「やったもん勝ち」(笑)。舞台の上で「生きている」と思えればそれで幸せと思うかな。昨日よりは今日、今日よりは明日と、先を目指せるところも好きなのかもしれないです。

2022.11.06(日)
文=黒瀬朋子
ヘアメイク=川端富生
スタイリスト=吉田ナオキ
撮影=平松市聖