作品の役作りなどではなく、純粋に気分で短くしたという軽やかな髪型がお似合いの窪田正孝さん。

 軽やかなのは、ヘアスタイルだけではない。音楽との触れ合い方から人間関係、仕事への向き合い方やマインドまで30代を境に大きく変化し、すべての巡りが良くなったという。

 「仕事がより好きになった」と語る彼に、一体何が起きたのか。

 人気シリーズの舞台を東京に移した出演ドラマ「モダンラブ・東京~さまざまな愛の形~」をヒントに窪田正孝のルーツと今に迫った。

意識したのは“いい人になりすぎないこと”

――ニューヨーク・タイムズ紙に掲載されたコラムを基に、愛にまつわる物語を描いたAmazon Originalのドラマ「モダンラブ」は、2019年に配信され世界中で大きな話題を呼びました。窪田さんはご覧になっていましたか?

 存在自体は知っていたんですけど、オファーをいただいてから前シリーズを見ました。普遍的なテーマを扱っているし、何よりもオムニバスっていうのが、やっぱり見やすいですよね。

 元々、妻の水川(あさみ)が東京を舞台にした新シリーズ「モダンラブ・東京~さまざまな愛の形~」に出演することを聞いていたので、お話をいただいた時は偶然だなと思いました。ただ、僕がオファーを受けた時点で、妻は出演エピソードの撮影(エピソード1「息子の授乳、そしていくつかの不満」)を終えていて。かなりタイムラグがあったんです。

――窪田さんが出演するのは、最後の7話目のエピソードとして収録されているアニメ「彼が奏でるふたりの調べ」。黒木華さん演じる珠美の高校時代の同級生・凛の声を担当されています。

 まず、アニメということに興味が湧きました。一緒に声の収録はしていませんが、華ちゃんがヒロインの声を担当するということで、すごく安心感がありました。なんというか、脳に気持ちいいくらい届いてくる繊細な声なんです。彼女の声に導いてもらった感じがしました。

 ただ、凛はすごく言葉数が少ないんです。そこが難しさでもあったし、魅力でもあるなと思って。意識したのはいい人になりすぎないこと。物語の大半は、珠美による高校時代の回想なので、凛を美化していい人に演じてしまうと、その後の展開があからさまなラブストーリーになってしまう気がして。あくまでも、僕は凛という存在を素直に演じて、どう受け取るかは珠美に任せる感覚でいました。

――確かに、体温の低いトーンや淡々とした受け答えは、凛のミステリアスさを際立たせています。

 学生時代って、クラスで馴染めていないと人の目線が気になったりすると思うんです。でも凛はそのことを別に気にしていないし、自分の世界をしっかり確立している。馴染めないことにストレスを感じていない彼は、周りよりも大人びていますよね。それが彼の強みだし、意志をちゃんと持っているキャラクターだなと感じました。

自分が何者なのか少しだけ見えるようになった高校時代

――窪田さんの学生時代は、いかがでしたか?

 どうだろう。僕は珠美に近かったかな。周りに合わせようとするんだけど、そのことにすごくストレスを感じていて。学校が終わった瞬間、すぐに帰ってバイトに行く毎日を過ごしていました。放課後に友達と買い物に行ったりした記憶がほとんどないです。

 うちの高校は特殊で、隣接する別の高校と食堂が共用だったんです。みんなは、そのでっかい食堂でご飯を食べるのに、僕はお昼ご飯を買ったら真っ先に自分の教室の自分の席に戻っていました。結構、こじらせてましたね(笑)。

――ひとりでいることが多かったんですか?

 ダンス部でブレイクダンスをやったり、仲がいい人はいたんです。でも学校があまり好きではなくて。授業もほとんど寝てました。たまたま同じ年に生まれた人たちが、どうして同じ教室に箱詰めされて、先生の言われた通りに机を並べて座らされなきゃいけないんだろうとか、漠然と思っていました。今思うと、結構やばい奴ですね(笑)。

 ただ、高校3年生の時に俳優デビューしたら、周りが「テレビ見たよ」って、いきなりリスペクトしてくれるようになったんです。僕も若かったから「すげーだろ」みたいな気分になったりもしました。その頃からですかね。自分が何者なのか、少しだけ見えるようになったのは。もちろん、そんな周りの変化はいっときのことだったし、調子乗ってたなと思いますけどね。この話、初めてしました(笑)。

2022.10.21(金)
文=松山 梢
写真=釜谷洋史
ヘアメイク=菅井征起(GÁRA inc.)
スタイリスト=菊池陽之介