なぜなら小さな場所に暮らす人々流に言えば、刺青は覚悟の証であり、身体の奥深くに秘めた牙であり、生きるためのよすがである。ならばどれだけ親しい仲であったとしても――いや親しい仲であればこそなお、その存在を言葉に出して問い質してはならぬのだから。

 昨年二〇二二年、東山彰良はデビュー二十年を迎えた。さて、そんな氏はこれからどんな旅に出るのだろう。生きることの憂鬱を怠惰を、その平凡に対する後ろめたさと鬱屈をどんな光景に織りなすのだろう。

 なにせ愛の複雑さと冒険を入れ子の如く描いた『怪物』、幕末を文字通り駆け抜ける男たちの葛藤を描いた『夜汐』など、既存のジャンル区分を軽々と飛び越え、我々を自らも気づかぬ旅に誘う彼のことだ。事前の予想なぞさらりと裏切り、あっと驚く、その癖どうにもならぬほど愛おしい異境に連れ去ってくれるに違いない。その日が今から待ち遠しくてならない。

2023.01.30(月)
文=澤田 瞳子(作家)