余白を残して、観る人の想像力に委ねる

――振付を創るという作業は、まずは台本と曲に目を通すことから始まるのでしょうか?

 そうですね。先に曲も台本をいただきました。実は(2022年)7月に怪我をしてしまいまして、動くことができない時期がありました。その時にジェイソンさんが日本でワークショップをなさった映像をいただいて、本読みの通し稽古をされているのを毎日リハビリをしながら、ひたすら聴いていました。

 舞台装置の映像も見せていただいていたので、歌唱を聴いているうちに、渋谷のスクランブル交差点のシーンが思い浮かんできて、これがうまく伝わるといいなと頭の中でイメージしていました。

 海外生活が長いので、“外から見た日本”というものを私なりにわかっていると思うのですが、だからこそ、日本人であることを意識してダンサーとしての踊りや振付にも取り組んでいます。外に出たからこそ見えたという視点も生かせたらいいなと思いました。

――振付をするうえで大切にしていることを教えてください。

 バレエ作品に『ロミオとジュリエット』があるように、ダンスには恋愛を描いているものが多いんです。身体の動きで表現するのがダンスなので、恋愛を表現するのは難しいことではありません。

 ただ、私はすべてをダンスで語ってしまうよりも、観る方の想像に委ねる部分を残した方が、ご覧になる方も楽しめると思っています。人はそれぞれ育ち方も違えば生き方も違います。ですからベースとしてのストーリーはあっても、それにがっちりとはめ込まないようにしています。

踊る人達の個性を生かして

――実際にキャストの方達に振付をしてみて、どのような手応えを感じていますか?

 2チームありますが、全く違いすぎるので、私は違うものとして捉えています。

 ベテランの「空」チームは、大体のことを伝えると、それを彼らなりに捉えてくれるので、見ていてワクワクします。私自身もダンサーとしていろんな人とクリエーションする中で、ゼロからものを創るときに自分の何かを入れるというのは、すごく大事なことだと思っています。ですから振付家から何か言われた時に自分なりに消化して、“こういうのはどうか”と提案することがあります。そうした一緒にものを作っているという気持ちは大切にしたいですね。

 一方「海」チームは、若くてすごく可愛い。毎日どんどん成長していく姿が見られて楽しいです。映像作品とは違って、舞台だと遠くから見たときに身体でどのように表現するか、というのを伝えていきたいと思っています。

 例えば、頭の向きだけでも少しシャイに見えることもありますから、「もう少しぐっと顎をあげてみて」とか、「こういう時はもう少し腕を上げた方が大きく見える」とか、舞台経験が少ないとわからないようなところを少しだけ補うようにしています。基本的には同じものを提供していますが、部分的に表現をそれぞれ少し変えています。

――アンサンブル2)も含め、“その人らしさ”を引き出すような踊りなのでしょうか?

 そうですね、それぞれの人の個性ができるだけ出るようにしています。アンサンブルの方たちにも個々のキャラクターがあって、少しずつ“この人はこういうキャラクターなんだ”というのが見えてくるんです。だから個々が大事だということは伝えていて、違うキャラクターだけど同じ方向に向かって進んで行くようにしています。

2)群舞や合唱を担う、主役級以外のダンサーや役者

――ダンスとしての見せ場はどの場面ですか?

 冒頭のダンスには特に見どころがありますね。完治とリカが伝説の王女と旅人としてパラレルに登場する“伝説のストーリー”という場面はダンスだけで始まって、それから完治が歌って、先ほど話した渋谷のスクランブル交差点の場面もあって、さらに続く“ジブリ”のようなファンタジックな世界でもちゃんと踊るところもあって、ダンスが観られるところは十分あると思います。

――小池ミモザさんが本作で伝えたいことは?

 ミュージカルの振付にこういうやり方もあるんじゃないかというか、作品のストーリーをうまく伝えて、お客様に楽しんでいただけることをダンスでサポートできたらいいなと思います。

 昔のミュージカル作品をたくさん拝見しましたが、見終わった時に幸せになっていることに希望があります。ミュージカルには深いメッセージがあって、最後は笑顔になれると思っていまして、歌の力って、本当にすごいですね。稽古中も毎回聴きながら感動しています。

 私のアシスタントが、私が稽古中に発した言葉をメモ帳に記録してくれているのですが、その中に「ミュージカルっていいな」って何度か書かれているんです! 私がそう言っているからですよね(笑)。皆さんには最初に「もちろんベースは創るし、振付もするけれど、一人一人が考えたキャラクターで何か足してもらっても構わない」と伝えたら、毎日のようにちょっと足してくれる人もいて、私自身にも毎日発見があります。私もこの作品に楽しませてもらっているので、皆さんにも笑顔になっていただけると思います。

小池ミモザ(こいけ・みもざ)

名門フランス国立リヨン・コンセルヴァトワ―ルを主席で卒業。2001年スイスのジュネーブ・バレエ入団。2003年に振付家ジャン・クリストフ・マイヨ率いるモナコ公国モンテカルロ・バレエに移籍し、2005 年最年少でソリスト、2010年プリンシパルに昇格。2015年モナコ公国より日本人ダンサー初シュバリエ文化功労勲章を受章。豊かな芸術性と抜きん出た技術で、振り付けや演出でも活躍。

ミュージカル『東京ラブストーリー』

2022年11月27日(日)~12月18日(日) 東京・東京建物Brillia HALL(豊島区立芸術文化劇場)
2022年12月23日(金)~12月25日(日) 大阪・梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ
2023年1月14日(土) 愛知・刈谷市総合文化センターアイリス 大ホール
2023年1月21日(土)~1月22日(日) 広島・JMSアステールプラザ大ホール
https://horipro-stage.jp/stage/love2022/

2022.11.26(土)
文=山下シオン
撮影=三宅史郎