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 日本のミュージカル界を牽引する一人として活躍している海宝直人さん。そのキャリアは7歳に始まり、34歳にしてすでに舞台での芸能活動が25年以上になるベテランの俳優だ。

 2023年3月にはミュージカル『太平洋序曲』の香山弥左衛門役での出演が控えている。これまでの作品でも圧倒的な歌唱力と魂が込められた演技で観客を魅了する彼はどんなスタートを切って、この道を歩んできたのだろうか?

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オーディションに合格し、劇団四季初の子役でデビュー

 海宝さんが初めて舞台に立ったのは劇団四季のミュージカル『美女と野獣』のチップ役。まだ7歳だった当時からミュージカル俳優になろうという思いを抱いていたのか、伺った。

「姉がミュージカルの『アニー』に出ていたので、家でも僕がモリー役をやらされて“アニーごっこ”をして遊んだり、歌を歌ったりするのが日常でした。子役の事務所には入っていたものの特にレッスンや稽古はしていなかったのですが、幼稚園の年長くらいのときにオーディションを受けてみたら、受かったんです。当時は子役として演じていることも姉と遊んでいる日常の一部みたいな感じだったので、仕事をしている感覚はありませんでした。

 『美女と野獣』は劇団四季が初めて子役を使う作品でした。このときから“子役担当”という係ができて、劇団四季のメソッドから、お芝居や歌のこと、ダメ出しも含めてその方がつきっきりで全部指導してくださいました」

ミュージカル俳優になる決意をした

 子役を続けてきた海宝さんだが、何がきっかけでミュージカル俳優になろうと決意したのだろうか?

「実際に仕事として考えたのは高校を卒業する時期でした。ちょうど大学受験をするか、しないかという選択を迫られている頃、『ミス・サイゴン』の公開オーディションがあることが読売新聞に大々的に告知されていたんです。これを受けてみようと思って申し込んで、高校を卒業直前にオーディションを受けました。これが通ったことが大きなきっかけだと思います。

 それまで経験していた子役に求められるのは、与えられたものをしっかりこなすということでしたが、大人になると子役のときのようにずっと指導していただくことはありません。『ミス・サイゴン』ではアンサンブルとして出演させていただいたので、自分の演じる役に名前をつけてどういう経歴を持つ人なのかをまず考えました。バーにいるシーンでどういう自分でいるか、相手役で組んでいる人とどういう関係性でいるかなど、自分たちで考えなくてはならない余白がたくさんありました。このときに自分で役をクリエイトするという経験ができました」

人生を変えたミュージカル『ノートルダムの鐘』

 こうして大人の役を演じ、舞台に立つ仕事をする道を選んだ海宝さんは、徐々に名の付く役にキャステイングされていくようになる。

 2015年のミュージカル『レ・ミゼラブル』ではマリウス役、劇団四季の『アラジン』でアラジン役を演じ、注目を集めた。2016年には12月に初演された劇団四季の『ノートルダムの鐘』にはオーディションで選ばれ、東京の初日公演で海宝さんがカジモドを演じた。伸びやかな歌声と感情が込められた演技は好評を博した。公演のライブレコーディングを収録したサウンドトラックが発売され、見逃した方も今なお体感することができる。

「『ノートルダムの鐘』は自分にとってレジェンドといいますか、これを除いては語れないと思う作品です。実際に観た人の生き方を変えるくらいの影響力があると思います。ミュージカル版で描いている世界はヴィクトル・ユゴーの作品に真正面でぶつかっているので、ディズニーのアニメーションとは全く違っています。問題提起をされるというか、観ている人達に問いかけていて、結末で解決するという作品ではありません。ですから、演じている側も自分自身に問い続けなければならないと思って演じていました。

 『陽ざしの中へ』という楽曲があるのですが、この曲は自分にとって特別な曲になりました。カジモドを演じる前もライブなどで歌っていたのですが、この役を演じた後に歌ったときはそれまでの感覚とは全く変わりました。この作品はたまにCDを聴くことがありますが、今なお自分の原点の一つだと思っています。また機会があればぜひ出演してみたいです」

2022.11.17(木)
文=山下シオン
写真=山元茂樹
スタイリスト=津野真吾(impiger)
ヘアメイク=本名和美(RHYTHM)