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 今回上演されるミュージカル『太平洋序曲』は、巨匠スティーヴン・ソンドハイムが音楽を手がけ、1976年にブロードウェイで開幕した作品。梅田芸術劇場と英国メニエール・チョコレート・ファクトリー劇場が初のコラボレーション作品として選んだ。

 そしてオリヴィエ賞ノミネート演出家のマシュー・ホワイトと日本を代表する実力派のキャストが集結し、西洋のクリエイターの視点で描かれた「日本」を題材とした唯一無二の作品を新たに創り上げる。

 本作で海宝直人さんが演じるのは、浦賀奉行所の下級武士で役人である香山弥左衛門役。この役をどのように捉えたのだろうか。

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身近に感じられる香山弥左衛門というキャラクター

「『太平洋序曲』にはそれぞれの役割が与えられていてカリカチュアされたキャラクターが多い中で、香山弥左衛門はリアリティがあって、生活感みたいなものを感じさせるような生っぽい感じで描かれています。

 鎖国破りで捕らえられてしまうジョン万次郎とは思想ではどんどん分かれていきますが、弥左衛門役には日本人が歩んできた歴史を連想させる面があると思います。西洋の波が押し寄せてきたときに、その勢力を取り入れていくので、そういう意味でも共感できるキャラクターですね。

 今回は狂言回し、香山弥左衛門、ジョン万次郎の役がダブルキャストになっています。『ミス・サイゴン』のときもエンジニアがクワトロキャストだったり、クリスやキムがトリプルキャストだったりしましたが、1人が変わると全体の雰囲気ががらっと変わります。キャラクターが変わるのは、演じていてすごく楽しいですね。今回もそうですけれど、キャストが変わることで違うものになるのは、とても助けになっています」

ミュージカル界の巨匠が描いた楽曲の魅力

 スティーヴン・ソンドハイムが手がけた楽曲も本作の楽しみの一つ。1976年のブロードウェイの初演の出演者によるレコードが発売され、のちにCD化された。この音源はSpotifyでも聴くことができるので観劇の前にぜひ試してみていただきたい。それでは海宝さんが本作の中でどの曲が好きなのか伺った。

「僕は『Someone in Tree』が好きですね。物語の展開の流れを変える曲ではないとは思いますが、やっぱりないとこの作品は成立しないとも思える曲なんです。本来だったら誰も知り得ないような出来事を目撃していた、表には出てこない歴史を目にした民衆たちみたいな感じがいいなと思いました。

 ソンドハイムさんが作曲される曲には、すごく緻密に計算されたメロディやリズムというものでキャラクターの感情が表現されている作品が多いんじゃないかと感じています。だから、崩してしまうと見えなくなってしまうんです。オーケストラの音と音とがぶつかって緊張感が保たれていたものが、和音になって解放されていくのですが、それが崩れてしまうと全体的にも一気に崩れてしまうような印象がありますね。

 基本的にはその緻密に表現されているものをきちんと歌い、半音なのか、全音なのかということも大きく変わってくるので、そのニュアンスをしっかりと汲み取っていかなくてはなりません。

 音を使って表現することでしか伝えられないものがあるのがソンドハイムさんの独特な部分なのかなと思います。叙情的な部分を先行して作曲されたのかなと思うキャッチーな曲もあるので、楽しんでいただきたいですね」

自分が“体験ギフト”をもらったら何を選ぶ?

 楽曲からも作品に込められたメッセージを受け止めて、表現しようとする海宝さんの情熱が伝わってくる。伸びやかで美しい歌声と熱い演技をぜひ楽しんでいただきたい。

 そんな彼が誰かに贈りものをするとしたら? 12月7日発売のCREA冬号「贈りもの特集」にちなんで、贈りものをするとしたら何を選ぶのか聞いてみた。

「1度友だちに贈ったことがあるんですが“体験ギフト”って素敵だなと思いました。内容や金額などいくつか券があって、その中から自分が好きな体験を選ぶことができるんです。レストランで食事をするというのもありますし、ヘリコプターに乗るとか、やってみたい体験をプレゼントするって素敵じゃないですか! 物を贈るって相手の好みもありますから何を選ぶかが難しいですけど、受け取った人が好きなことを選べるのはいいですよね。

 僕が選ぶとしたら、空からシューッと降りていくパラグライダーみたいなことがやってみたいなと思います。高所恐怖症なので怖いですけれど、空からだと、ビルよりももっと高所だから、かえって怖くないらしいです(笑)。もしかすると日生劇場の音楽劇『道』で綱渡りしたときのほうが怖かったかもしれないですね(笑)」

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海宝直人(かいほう・なおと)

1988年生まれ。1995年、7歳で劇団四季のオーディションに合格し、『美女と野獣』のチップ役でデビュー。1999年『ライオンキング』の初代ヤングシンバ役に抜擢される。その後も舞台を中心に活動し、近年の劇団四季の作品では『ノートルダムの鐘』のカジモド役、『アラジン』のアラジン役などに出演。2018年5月には3つの著名なオペラで構成されたミュージカル『TORIOERAS』でロンドンのウエストエンドデビューを果たす。主な出演作品には『イリュージョニスト』、『アリージャンス~忠誠~』、『ミス・サイゴン』など多数。2023年は3月ミュージカル『太平洋序曲』、6月音楽劇『ダ・ポンテ』、9月ミュージカル『アナスタシア』などへの出演が控えている。

ミュージカル『太平洋序曲』

作詞・作曲/スティーヴン・ソンドハイム
脚本/ジョン・ワイドマン
演出/マシュー・ホワイト

公演日程
東京 2023年3月8日(水)~29(水)日生劇場
大阪 2023年4月8日(土)~16(日)梅田芸術劇場メインホール
https://www.umegei.com/pacific-overtures/

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2022.11.17(木)
文=山下シオン
写真=山元茂樹
スタイリスト=津野真吾(impiger)
ヘアメイク=本名和美(RHYTHM)