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2022年は『ミス・サイゴン』のクリス役で輝く

 近年はプリンシパルキャストとして活躍している海宝さん。19歳の時にアンサンブルとして出演していたミュージカル『ミス・サイゴン』にも2020年の公演でクリス役にキャステイングされていたが、コロナ禍で公演が中止になってしまった。そして2022年7月に待望の海宝直人さんのクリスが登場し、戦争で受けた苦しみやキムとの出会いで愛するということを知った喜びなどの感情を丁寧に体現した。

「『ミス・サイゴン』は演出家のJP(ジャン・ピエール・ヴァン・ダー・スプイ)さんとともに創っていってできた自分なりのキャラクターです。“ゼロ幕”といいますか、クリスがどういう経験をして、どういう精神状態に置かれているのかということをしっかりと“ドリームランド”の出会いの場面から提示していくと、その後の展開に説得力が増すだろうと思っていたんです。だからクリスとキムがお互い恋する気持ちを歌った“サン・アンド・ムーン”までの時間をいかに大事にするかということもJPさんと話しながら創っていきました。そこまでの物語が駆け足で進んでいくので、そこを丁寧に繋いでいくということを大事にしました」

『太平洋序曲』、出会って受けた印象は挑戦的な作品!

 海宝さんが出演された様々な作品で、強い印象を残してきたのは、こうした役作りの綿密な積み重ねに依るもの。その役としての思いは、彼が歌う楽曲にも込められている。

 そんな彼が2023年の最初に出演するのが『太平洋序曲』である。この作品にはどのような印象を持ったのだろうか。

「初演の映像しか拝見していないのですが、歌舞伎の女形や黒衣(くろご)のような表現スタイルを取り入れたり、ナレーターみたいな存在がいたりして物語が進んでいくというのは、すごくチャレンジングな作品だと思いました。当時は賛否両論があったそうで、ロングラン公演にはならなかったようですが、トニー賞にノミネートされたそうです。僕自身は他の作品にはないテイストや質感みたいがあることに日本人としてとても興味深い印象を持ちました」

 海宝直人さんと日本を描いたこの斬新な作品との出合いは、どのような形で実を結ぶのだろうか? 【後篇】に続きます。

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海宝直人(かいほう・なおと)

1988年生まれ。1995年、7歳で劇団四季のオーディションに合格し、『美女と野獣』のチップ役でデビュー。1999年『ライオンキング』の初代ヤングシンバ役に抜擢される。その後も舞台を中心に活動し、近年の劇団四季の作品では『ノートルダムの鐘』のカジモド役、『アラジン』のアラジン役などに出演。2018年5月には3つの著名なオペラで構成されたミュージカル『TORIOERAS』でロンドンのウエストエンドデビューを果たす。主な出演作品には『イリュージョニスト』、『アリージャンス~忠誠~』、『ミス・サイゴン』など多数。2023年は3月ミュージカル『太平洋序曲』、6月音楽劇『ダ・ポンテ』、9月ミュージカル『アナスタシア』などへの出演が控えている。

ミュージカル『太平洋序曲』

作詞・作曲/スティーヴン・ソンドハイム
脚本/ジョン・ワイドマン
演出/マシュー・ホワイト

公演日程
東京 2023年3月8日(水)~29(水) 日生劇場
大阪 2023年4月8日(土)~16(日)梅田芸術劇場メインホール
https://www.umegei.com/pacific-overtures/

次の話を読む「音でしか表現できないものがある」海宝直人【後篇】ミュージカル界の巨匠が手がける“独特”な楽曲に挑む

2022.11.17(木)
文=山下シオン
写真=山元茂樹
スタイリスト=津野真吾(impiger)
ヘアメイク=本名和美(RHYTHM)