この記事の連載
今、夜な夜なマンガに夢中になっている大人が急増中。ある電子書店のデータによれば、マンガ作品がよく読まれるのは22時以降、ピークは深夜0時だそう。※
眠りにつく前のひとときに、時代をあぶりだす社会派から大人の胸キュン、コッソリ読みたい一冊まで……。日中のあれこれを忘れさせ、新しい世界に連れ出してくれる作品に、CREA秋号「マンガ」特集では「夜ふかしマンガ大賞」を贈りました。
今回は、オールタイムの名作から選ぶ11の部門賞のうち、今回は、人気Podcast番組を手掛けるTaitanさん、玉置周啓さんのユニット『奇奇怪怪明解事典』が語る〈笑い部門〉を発表します。
22時から明け方まで、ページをめくる手が止まらない―!?
※ 総合電子書籍ストア「ブックライブ」で、ストア利用(書籍購入)が一番多い時間帯。
» 「夜ふかしマンガ大賞」1位~4位はこちら
» 「夜ふかしマンガ大賞」5位~10位はこちら
» 「夜ふかしマンガ大賞」〈番外篇〉ノミネート8作品はこちら
» 「夜ふかしマンガ大賞」〈女の人生部門〉13作品はこちら
» 「夜ふかしマンガ大賞」〈お仕事部門〉8作品はこちら
» 「夜ふかしマンガ大賞」〈胸キュン部門〉9作品はこちら
» 「夜ふかしマンガ大賞」〈家族とは? 部門〉6作品はこちら
» 「夜ふかしマンガ大賞」〈長編部門〉13作品はこちら
» 「夜ふかしマンガ大賞」〈戦争部門〉7作品はこちら
» 「夜ふかしマンガ大賞」〈音楽部門〉6作品はこちら
» 「夜ふかしマンガ大賞」〈グルメ部門〉8作品はこちら
CREA夜ふかしマンガ大賞とは…
マンガ好きの35名の推薦者とCREA編集部員の投票により選ばれた「思わず、夜ふかしして読みたくなる」そして、「今、CREA読者に本当におすすめしたい」作品に贈る賞。大賞は、2021年7月~22年6月末までに単行本の新刊が発売された(ただし、合計5巻以内)、もしくは、雑誌などに最新話が発表された作品から選出。各部門賞は、作品発表の時期や巻数に制限はありません。
『奇奇怪怪明解事典』が語るギャグマンガ
TaiTan えーと、今回は「笑い」がお題ということで、ギャグマンガの話をしようかと。
玉置 ギャグマンガね。俺が最初にハマったのは、「週刊少年ジャンプ」で連載していた『ボボボーボ・ボーボボ』かな。ああいう意味不明な笑いが当時、めちゃくちゃ刺激的でツボにハマったんだよね。
TaiTan あー、謎のギャグとか、小学生男子は弱いよな。
玉置 あと印象に残ってるのが『Mr.FULLSWING』(鈴木伸也/集英社)。ジャンプ系の野球ギャグマンガなんだけど、野球ではなくじゃんけんをするシーンに力が入ってるの。パーには勝てるがグーにもチョキにも勝てんとか、くだらない新概念を仕込まれる感じが、当時すごい興奮したんだよね。
TaiTan そういう洗礼的マンガといえば、俺の場合は『グラップラー刃牙』シリーズかな。地球で誰がいちばん強いかだけを追求していく格闘マンガなんだけど、もしゴキブリが人と同じサイズだったら、あの初速の速さには誰も勝てないとか言って、ゴキブリを師匠に走行技術を生み出すっていう……。設定的にはファンタジーではなく現実世界の話なんだけど、あり得ないだろ! ってことが次々に起こるの(笑)。手に毒素を沈着させて戦ったり。擬音も特徴的なんだよね。
玉置 それはヤバイね(笑)。
TaiTan あとハマったのは『魁!!クロマティ高校』。冗談を冗談っぽくやらないところに品を感じた。抜けた世界観も感じるし。
玉置 たしかに、『絶体絶命 でんぢゃらすじーさん』も、下品であることが品、みたいな感じはあったな。
TaiTan 俺、ギャグマンガのよくあるキテレツ感みたいなのが苦手で。最近のマンガで言えば、『女の園の星』(和山やま/祥伝社)みたいな、コミカルコミカルしてない方が好み。
玉置 それ、分かるわ。あと、大人になってくるとネタ的なおもしろさよりも、フォーマット自体のおもしろさに目がいくようになっていった。
脳味噌を刺激されたフォーマットの革命
玉置 そういう意味で、脳味噌を刺激されたのが『ムーたち』(榎本俊二/講談社)。シュールでブラックな禅問答みたいなマンガで、内容がどうこうより、フォーマットに感動するし、語り口は淡々としてるのに、めちゃくちゃ過激で実験的。
TaiTan 榎本俊二はいいよね。俺が衝撃を受けたのは『GOLDEN LUCKY 完全版』かな。高校のときの友達に借りたんだけど、あまりにおもしろくて、未だに借りパクしたまんまになってる。これは、そいつより俺が持ってた方が世の中のためになるなって。
玉置 いや、その思想は危険だろ。でも、そういうヤツが生まれるぐらい衝撃だったよね。
TaiTan 最近の作品でいえば、『ハラストレーション』も、下品なんだけどギリギリ品を保ってるし、発想力がすごい。なかでもマンガの枠を擬人化した話が強烈で、ベテランの枠が新人の枠に、俺は◯◯◯(国民的大ヒットマンガ)を載せてきたってマウントを取って、そんな作品ありましたっけ? とボケられるという(笑)。
玉置 我々としては、そういうエクストリームな笑いに惹かれるよね。お笑いで言えば、ランジャタイとかBKBとか。
TaiTan 俺はジャルジャルとか、あと松本人志の「ドキュメンタル」(Amazon Prime Videoで配信中)はデカイな。
点で刺せる腕力こそギャグマンガの真髄
TaiTan そういう意味で、TaiTan史的に最もおもしろいギャグマンガは、やっぱり藤岡拓太郎先生。藤岡さんは自分の作品のことを、どこかの架空の世界にワープしてカメラを向けてるだけで、ドキュメンタリー作家のつもりでやってると言ってて。一見現実にはあり得ないエクストリームな世界観なんだけど、全くのファンタジーではなく、自分の生活の中でぎり起こるかもしれないおもしろさがある。日常から微妙にズレた、虚実皮膜の境界線のおもしろさ、みたいな。
玉置 それ分かるわ。藤岡さんのおでんのネタ(『藤岡拓太郎作品集 夏がとまらない』に収録)とか、荒唐無稽でおもしろいんだけど、こういう人いるかもって思った瞬間に、自分の体に触られた感じがしてゾクッとする。笑いと恐怖って表裏一体で、だから俺は最近、怖いものがおもしろくなってきたかも。映画でも『ヘレディタリー 継承』とか『女神の継承』とか、ジャンル的にはホラーだし本当に怖いんだけど、爆笑しちゃう感じ。
TaiTan 笑いも恐怖も生理反応だし、両極に振り切れた点の表現だからね。藤岡さんは「おもしろい」と「怖い」と、さらに「かわいい」を内面化してる人だから、圧倒的だし、同じ時代を生きてるのが幸せですね。
玉置 藤岡さんは殿堂入りだよね。俺、藤岡さんのマンガを読んだとき「親友に会えた」みたいな感覚あったもん。ただ、このおでんのネタのおもしろさをどれだけ言葉で人に説明しても、全然おもしろくならない(笑)。ギャグマンガって説明することが不可能というか、説明すればするほど魅力が矮小化してしまう気がする。
TaiTan 逆にいえば、ギャグマンガの魅力は、説明を必要としないところだね。流れとか関係なく、いきなり点で刺せるし、最終的に笑えれば、何やってもいい。そんな有無を言わせない腕力の強さは、お笑いや格闘技にも通じる、ギャグマンガの魅力だと思う。
玉置 たしかに、物語としては破綻してても、書き手と読み手のセンスが一致してれば伝わる。
TaiTan 今、ギャグマンガの主戦場ってTwitterになってるけど、そういう点で刺せるところが点のメディアであるTwitterと親和性が高いのかなって。
2022.10.23(日)
Text=Keiko Iguchi