主人公・夕子の心の痛みを解く「静けさ」を意識
――井上さんが、なぜ今、『わたしのお母さん』に出演しようと思われたのかが気になります。
お話をいただいたのは、もう3年前のこと。まあ、渋いなって思いました。
でも、主人公の夕子が抱えている苦しみを、ゆっくり時間をかけて解いてあげるような静けさと優しさがあって。ぜひ挑戦してみたいと思いました。
――演じられた夕子役は、悪気なく娘を追い込んでしまう母親との関係に苦しさを感じる女性です。
もうちょっとうまく生きられたら楽なのに、とは思いましたね。自分に嘘がつけないところはいいな、と。夕子のようになんらかの生きづらさを感じている人たちに見てもらいたいという思いで演じました。
――演じる上で一人ぼっちの感覚を意識したそうですね?
夕子には夫や家族がいるけれど、どこかで「この部分は理解してもらえないだろう」と抱えているものがあって。最初の脚本のタイトルは『閉じ込めた吐息』だったんです。だから、ポツンとした寂しさを自分の中に閉じ込めて、抱えながら生きているような感覚は大事にしていました。
――夕子の夫は、理解がある人のように見えますが。
突然の同居を受け容れて、義理の母が作った晩御飯で楽しそうに団欒。普通に見たら良い夫ですよね。「いいお母さんだと思うよ」と言う夫の言葉を「そうだよね」と飲み込んでいく。それが彼女らしいですよね。
2022.11.11(金)
文=松山 梢
撮影=平松市聖
ヘアメイク=AYA(TRIVAL)
スタイリスト=伊藤信子