AKB48の卒業から10年――。2021年にはフリーとなった前田敦子は、以前にも増して映画・ドラマ・舞台と精力的に活動し続けている。彼女の新作主演映画『もっと超越した所へ。』(2022年10月14日[金]公開)は、前田のエネルギッシュな“熱”を感じられる作品だ。

 クズ男たちになぜか惹かれてしまう女性たちの姿を、コメディタッチに描いた群像劇。前田扮する真知子は、駆け出しの衣装デザイナー。中学の同級生だった怜人(菊池風磨)とSNS上で再会したことから、なし崩し的に同棲することに。ミュージシャン崩れの怜人はヒモ男的なのに束縛がきつく……。

 強く言い出せず、流されてしまうタイプだった真知子があるタイミングを境に爆発し、立場が逆転していくさまは哀しくも痛快。恋愛のイタさが詰まった本作を軸に、恋愛観や役者業、ライフスタイルに至るまでざっくばらんに語っていただいた。

――今回演じられた真知子役について、「女子のフラットな部分を持っているキャラクターなので、多くの方々に共感してもらえると思います」とコメントされていましたね。この「フラット」の部分、もう少し伺いたいです。

 女性は人とのコミュニケーションが上手い人が多いと思いますし、「仕事は仕事」と割り切っている人も多く、私自身もそうです。仕事であんまり落ち込むことも感情的になることもないのでそういう意味では見た目上はフラットなのですが、感情がないわけじゃない。友だちの前でも気は遣うし、どこかで抑えたりコントロールしているものだと思います。

 それを乗り越えた先にあるのが恋愛で、そこまで行くと自分の“本質”が出ちゃう。自分でも知らなかったような自分に出会えるといいますか。

――なるほど。意識的にフラットに見せているけど、恋愛によって剝き出しの自分が出てくる。

 その瞬間は、突然来るものだと思います。真知子はずっと我慢できちゃう子だから、最初は見て見ぬふりをするんですよね。「まぁいっか」と思って流してきたけど、気づいたら(感情が)溜まっていて、それに気づいたときにバーッと爆発してしまう。緻密に細かく積み重ねていくというより、「自分の人間的な部分に気づいてなかった、実は我慢してたんだ私」とその場で発見するような感覚でした。

 特にケンカのシーンなんかは、頭で考えるとセリフがついてこないんです。考えながら言ってしまったらテンポがどんどん遅れていってケンカにならなくなっちゃうので、その時の感情が仮にセリフに合っていなかったとしてもとりあえず投げちゃう。でもその方が、本来のケンカに近くありません?(笑)

――わかります。整理できてないけどまくしたてちゃうというか。

 ケンカをしているときって、思ってもみないことを言いますよね。全くそんなことを言わなさそうな人が「死ね!」とか言ったりしますし。怜人(菊池風磨)のシーンはもともとムカつくシーンだったので(笑)、やりやすかったです。通帳を見て、知らない女から毎月お金が振り込まれているってどういうこと⁉って。私でも問い詰めると思いますし「わかる」というシチュエーションでした。

 山岸聖太監督からもケンカのシーンは特に演出らしい演出はなく、どちらかというと穏やかなシーンのほうが計算してくれていた気がします。私はひたすら受け身な役でしたが、怜人が自分勝手でマイペースなのにどこか可愛らしく見えるように、山岸監督と菊池くんで作っていました。

――菊池さんとの丁々発止のやり取りが非常に面白かったですが、その場で生まれてくるものを大事にされていたのですね。

 そうですね。本来人の喋り方って100人いたら100通りあるし、しゃべり方や感情の出し方もみんな違うし、その時々によって変わるもの。いまこうやってお話ししていても「こうやってしゃべる」みたいに予定調和にはならないじゃないですか。そういうことを考えれば考えるほど、自分らしくていいのかなとしっくりくるようになりました。

 ただ、私の普段のしゃべり方はクセがあって、セリフに落とし込んでいくとうまくいかないときもあります。舞台などで普段使わない言葉を使うとき、感覚で話すと「イントネーションが違う」と指摘されることも結構あって、よくその壁にぶち当たっています。

――そうだったのですね! 意外です。

 たとえば「いちいち」の発音なんかも、自分だと全然わからなくて。普段私はどんなしゃべり方をしてるんだろう? と考えもしたのですが、たぶんすごく感覚的で考えてしゃべっていない気がします。

――ただ、前田さんはこれまでそれぞれに個性の立った役を多数演じてきました。黒沢清監督や山下敦弘監督、沖田修一監督ほか多くの映画監督の作品に引っ張りだこですし、作品選びも秀逸な印象があります。

 本数を重ねたからこそそうやって聞いてくださる方が増えてきましたが、私自身が選んだのではなく、呼んでくれる監督さんたちが被らないようにしてくれた感覚です。

 いわゆる商業寄りの作品じゃなくてアーティスティックなほうに出てるよね、とも言われますが、そっちに呼ばれないだけです(笑)。「テアトル系多いよね」という声をいただくこともありますね(笑)。

――テアトル系(笑)。確かに、東京テアトルの配給作品は多いですね。作家性が強い方々と波長が合うところがあるのでしょうね。

 それは私も思います。やっぱり好きなもののところに集まってくるものだと思いますし、自分自身も作家性が強い作品の方が観るのも含めて好きです。新しい可能性を感じるものが多い気がしますね。

――短編映画プロジェクト『DIVOC-12』のような映画作家の輩出企画にも参加されました。

 そうですね。『DIVOC-12』をはじめ、まだそこまで作品を撮っていない監督さんが何年も命を懸けて作っているような作品もあるので、そういう熱はやっぱり好きです。

2022.10.13(木)
文=SYO
撮影=深野未希
ヘアメイク=高橋里帆(HappyStar)
スタイリスト=有本祐輔(7回の裏)