子役として活動をスタートさせて以来、是枝裕和監督の『万引き家族』、犬童一心監督の『猫は抱くもの』、松居大悟監督の『#ハンド全力』、大森立嗣監督の『星の子』、河瀬直美監督の『朝が来る』など、日本を代表するクリエイターたちに愛され続けている蒔田彩珠さん。

 演じてきた役柄のイメージが強いからか、クールで内向的な印象を抱いてしまうけれど、実際の蒔田さんはよく笑う、笑顔がチャーミングな人だ。

 声優挑戦2作目となるアニメ映画『君を愛したひとりの僕へ』は、“並行世界”を描いたロマンあふれるラブストーリー。ヒロインである佐藤栞の8歳から14歳までの声を、豊かな感情表現で見事に演じ分けた。

 もしも映画のように違う世界にパラレルシフトできたとしても、「きっと今のお仕事をしている気がする」と語る、20歳の表現者の頭の中に迫った。

声優挑戦2作目。SNSでも話題の『君愛』に出演

――『君を愛したひとりの僕へ』への出演が決まった時の率直な感想は?

 実は初めて声優に挑戦した『神在月のこども』がすごく大変で、「声だけのお芝居は難しい!」って思っていたんです。最初にお話をいただいた時は、楽しみな気持ちももちろんありましたが、不安な気持ちの方が大きかったです。ただ、前回はコロナ禍ということもあり、ひとりで寂しく収録をしていたのですが、今回は主人公の暦くん役を演じた宮沢氷魚さんと一緒に掛け合いをしながらできるということだったので、頑張ろうと思えました。その違いは大きかったですね。

――では、前回よりも楽しく演じられた?

 でもやっぱり、難しかったです(笑)。普段のお芝居では、表情や仕草、ちょっとした間を自分で好きなように取り入れられるけど、アニメの声優の場合は、画があらかじめ決まっていて、言葉を発するタイミングも全て決まっているので。ただ、声のお仕事だと自分のビジュアルとは関係なく、全く違うキャラクターを演じることができるので、そこはすごく新鮮でした。

「演じたのは、私とは全くタイプが違う女の子でした(笑)」

――演じた佐藤栞は、白いワンピースの似合う、髪の長い女の子です。

 典型的な女の子っていう感じのビジュアルですよね。話し方とか、暦くんへの甘え方とかがすごく可愛くて。儚い感じの女の子だったので、私とは全くタイプが違いました(笑)。

――演じる上で心がけたことは?

 8歳から14歳までを演じるので、声のトーンとかはすごく気をつけました。8歳の頃の暦くんは、宮沢さんではなく別の方が演じられているので、それを参考に、ちょっと声を高くして幼くなるように工夫したり。14歳の時の栞も、やっぱり普段の地声よりも高くして、より女の子らしく聞こえるように心がけました。

――特に印象的だったシーンはありますか?

 栞と暦くんが、2人で逃げようと言いだすところです。

――お互いに恋心を抱く2人が、親同士が再婚することを知らされ、兄妹にならない運命が約束された“並行世界”へパラレル・シフトをし、駆け落ちをしようと決断する場面ですね。

 あそこは個人的にも頑張りました。栞が涙を流す場面だったので、どこから感情が動き出して、どこから涙を流すのか、そのタイミングがすごく難しかったんです。監督からは「口が開いたら涙が流れるから、そこでちょっと息を吸って」など、事細かに演出を受けました。実際に演じている時も、感情的になってうるっとしちゃいました。

――実際には親同士が結婚しても、血のつながらない2人が結ばれることは可能です。14歳ならではの衝動的な行動が印象的ですよね。

 知識がない子どもだからこそ、勢いで行動を起こしてしまう感じが悲しくもあり、美しくも感じました。お互いを思い合う子ども同士だからこそできる大胆な行動なので、好きなシーンだなって感じました。

どちらから観るかによって印象が大きく変わる作品

――『君を愛したひとりの僕へ』は、『僕が愛したすべての君へ』と同日公開されます。それぞれが独立した物語でありながら、2作を観るとふたつの世界が絡み合い、交差していることに気づく斬新な設定です。

 原作は、自分が演じる『君を愛したひとりの僕へ』から読みました。こっちから読むと、ピュアなカップルの素敵なハッピーエンドになっているんです。ただ、『僕が愛したすべての君へ』でヒロインを演じた橋本愛さんは、「『僕愛』から読んだ方がエモいよ」とおっしゃっていて(笑)。原作と同じく、映画もどちらから観るかによって印象が大きく変わるので、そこも楽しんでいただけたらと思います。

2022.10.06(木)
文=松山 梢
写真=佐藤 亘
スタイリング=檜垣健太郎(tsujimanagement)
ヘアメイク=山口恵理子