もしも並行世界があったら……
――ちなみに、並行世界を行き来することができる設定は、原作者の乙野四方字さんの中学2年生の頃の妄想から生まれたそうです。蒔田さんは普段、妄想することはありますか?
私自身はあまり妄想にふけることはないし、現実的なタイプかも。でも並行世界があったらいいなと思うし、ちょっと見てみたいなとは思います。
――もし並行世界があったら、どんなことをしていそうですか?
子どもの頃からこの仕事をしているので、結局、俳優のお仕事が一番しっくりくると思っちゃいそうです。やってみたい職業って、あまりなくて。今のお仕事に満足しちゃっているんです。ただ、全く関係ないことをしている自分がどういう生活をしていて、どういう性格になっているのか、パラレルシフトをしてちょっと体験してみたいなとは思います。
――俳優でなければ、性格すら変わっていそう?
違うと思いますね。関わる人も違うと思いますし……きっともうちょっと、無責任な性格になっているかもしれない(笑)。兄妹の中で私はしっかりしている方なのですが、兄は2人とも結構、無責任な人たちなので、その影響を引き継いでいるかもしれません。
――俳優になる前に憧れていた職業は?
忍者になりたいと思っていました。今はそうでもないんですけど、当時はすごくアクティブで、運動するのがすごく好きな子どもだったんです。忍者になりきって、兄と壁を登ったりして遊んでいました。あとは犬になりたいと思ったことも。今も家で3匹飼っているんですが、彼らの仲間入りをしたいなと思っていました。もしも私が犬になったら、犬種はチワワ。他の3匹のわんちゃんたちがやんちゃなので、おっとりした性格の犬になっているかもしれません。
――栞は父親から「見返りを求めず人を助けられる人になりなさい」と教えられますが、蒔田さんがご両親から言われて大切にしている言葉はありますか?
母からかけられた「本当に優しい人は強くないといけない」という言葉が一番大きいかもしれません。紡木たくさんの『やさしい手を、もってる』という漫画に出てくる言葉なのですが、母が教えてくれました。今ではその言葉をモットーにしていて、お仕事の現場はもちろんプライベートでも、相手に寄り添い、相手の気持ちになって行動したり発言したりするようにしています。強く優しい人でいたいです。
「心が震える瞬間は、映画やドラマを見ている時」
――俳優以外、なりたい職業はないと断言するほどお仕事に夢中なようですが、プライベートで夢中になっていることはありますか?
映画やドラマを見ている時が一番楽しいし、心が震える瞬間ですね。もともと好きだったのですが、1度目の緊急事態宣言の時をきっかけに、よりたくさん観るようになりました。日本の映画やドラマだと「自分だったらこうするかなあ」とか、お仕事目線で見ちゃうので、プライベートで観る時は海外の作品ばかり選んでしまいます。一番好きなのは家族もの。家族愛を描いた作品には弱いですね。
――特にお気に入りは?
アン・ハサウェイが大好きで、彼女が出ている作品はよく見ます。ドラマ『モダン・ラブ』はすっごく可愛かったし、映画『ラブ&ドラッグ』も好きでした。
――作家性の強い重厚な作品がお好きかと思っていました。
もちろん、「今日はしっかり観るぞ」って時は、考えさせられるような深い作品を観ることもあるんです。でも、「あなたへおすすめ」で出てきた作品を観てみたり、過去に観た作品でよかった監督や俳優さんの作品を掘り下げたり、本当に何でも観ますね。最近はNetflixの『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』がお気に入り。自閉症の女性が弁護士になるお話です。もちろんお仕事シーンで心が震える瞬間もあるんですけど、一番好きなのは3話。主人公を支えているお父さんとのやりとりが、もう、最高なんです。やっぱり家族ものには、一番弱いみたいです(笑)。
蒔田彩珠(まきた・あじゅ)
2002年8月7日生まれ、神奈川県出身。2020年公開『朝が来る』で、日本アカデミー賞新人俳優賞ほか数々の賞を受賞。主な出演作は映画『万引き家族』、『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』、NHK連続テレビ小説『おかえりモネ』、ドラマ『妻、小学生になる。』など。
『君を愛したひとりの僕へ』
両親が離婚し、父親と暮らす小学生の日高暦(宮沢氷魚)。ある日、父の勤務先で佐藤栞(蒔田彩珠)という少女と出会う。お互いに恋心を抱くようになる暦と栞だったが、親同士が再婚することを知らされ、兄妹にならない運命が約束された平行世界へ駆け落ちを決断する。別の並行世界を生きる、もうひとりの暦の物語『僕が愛したすべての君へ』も同日公開。
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2022.10.06(木)
文=松山 梢
写真=佐藤 亘
スタイリング=檜垣健太郎(tsujimanagement)
ヘアメイク=山口恵理子