この記事の連載
パンデミックという大禍を経ても、フランスは底力を見せつけ、さらに輝きを増している。2024年のオリンピックを目前にパリでは、たゆたうセーヌ川、時を刻む美しい街並みをステージに、世界中の人々を待ち受けている。
フランスの美食家ブリア・サヴァランが19世紀の名著『美味礼讃』の中で記したアフォリズムが思い起こされる。
美食を思う存分楽しめる、おすすめのホテルを9回に渡りご紹介。
今回はカトリーヌ・ドヌーヴが愛した邸宅をリノベーションした「Domaine de Primard(ドメーヌ・ドゥ・プリマール)」です。
アール・ドゥ・ヴィーヴルを体現する美しき理想郷
◆Domaine de Primard(ドメーヌ・ドゥ・プリマール)

「パリの大都会に住む人たちに、自然に恵まれた憩いの場所を提供したい」
そう思ったのは、現在8軒を展開するホテルグループのオーナー、ギヨーム・フシェ氏とフレデリック・ビウース氏の2人だ。

フランスの地域や遺産を保護しながら、フランス特有の“アール・ドゥ・ヴィーヴル(生きる芸術)”を未来永劫に伝えていきたい。
そんな思いで歴史ある館をリノベーションし、文化や芸術を感じながら、豊かな時を過ごしてもらえるようなホテルを次々に生み出してきた。

パリの西方約70キロ、サン・ラザール駅から郊外線に乗って50分のところにある18世紀建造のシャトーが売りに出されていた。
イル・ド・フランスとノルマンディ、サントルの3つの地方が集合する狭間にある。
40ヘクタールの敷地には、香り立つバラ園、整備された庭園、点在する池、小川も流れ、水辺にも恵まれていた。モネの庭園で知られるジヴェルニーも近い。一目で気に入った。

鍵の受け渡し時、2人は驚いた。先の住人が大女優カトリーヌ・ドヌーヴ氏だったのをその時に明かされたのだ。
35年もの間、別宅として滞在した“愛邸”だったからこその品格。

庭園は特に印象的だ。手がけたのは、ルーヴル美術館に対峙するカルーゼル庭園を手がけたことでも知られる大造園家のジャック・ヴィルツ氏である。
バラを愛するカトリーヌは250種もの苗木を植えさせている。初夏にはいっせいに咲き乱れる。

15年来見守ってきた庭師が今も庭の主人であり、庭園はいつも美しい。類まれな憩いの場所である。

2022.10.17(月)
文=伊藤 文
撮影=吉田タイスケ
CREA Traveller 2022 vol.4
※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。