私と豊川悦司さんはオスの部分とメスの部分のバランスがすごくいい気がします(笑)
――豊川悦司さんとは、『やわらかい生活』『愛の流刑地』ほか、ドラマや映画で何度も共演されています。おふたりのシーンは幸せな場面も喧嘩の場面も絵になり、喜びと哀しみが混在する関係にこちらも心がかき乱されるようでした。
そう言ってもらえて嬉しいです。豊川さんとは何本もやってきたつながりがあります。とはいえ、共演は久しぶりだったので、最初は不安もありました。でも、始まってみたら一気に払拭された。ふたりで演じていると想像以上のシーンが生まれるので、やっぱり楽しいんですよ。
――演じ方は何か相談されたのですか?
打ち合わせは一切しません。いつもそうです。役者さんとの演技の相談は、普段は気恥ずかしいからしないのだけれど、豊川さんとはまた少し違う感覚なんです。お芝居のなかで会話するのが楽しみというか、「現場でね!」と言い合うような関係です。
実は使われなかった名シーンがいくつもあります。
みはるが出家したあと、白木の家に招かれますが、帰りにタクシーに乗るところで、袈裟が車に入り切らなかったんです。それを篤郎さんが一生懸命押し込めようとしていた。ふたりは視線を合わせないけれど、つながっていることがわかるような、すごく繊細で丁寧なお芝居。ああいう表現は豊川さんにしかできないと思います。
――阿吽の呼吸なんですね。
人って誰もがオスの部分とメスの部分を持っているでしょう? その塩梅がすごくいい気がします。私の男性性が強くなっている場面では、豊川さんは自らの女性性を引き出しているというか。豊川さんは別に何とも思ってないかもしれないけれど。
比べるのもおこがましいですが、太地喜和子さんと平幹二朗さんは何作も共演されていました。喜和子さんも男性性が強く出る女優さん。そのときには平さんが女性的な繊細な側面を際立たせて、とても良いバランスを生み出しておられた。そんなイメージでいます。
――ぜひまたおふたりに共演していただきたいです。
豊川さんとは、「いつか、もう嫌! と思うところまで、とことんやってみたいね」と話しています。でも、嫌になるのもやっぱりヤだね、って笑い合いました。
2022.10.08(土)
文=黒瀬朋子
写真=伊藤彰紀