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 圧倒的な演技力で、見る者を惹きつける俳優・寺島しのぶさん。最新作『あちらにいる鬼』では、瀬戸内寂聴さんをモデルにした長内みはる(のちに寂光)を演じ、実際に剃髪をし、話題を呼んだ。

 本作の原作は井上荒野の同名小説。父・井上光晴と長年、恋仲にあった瀬戸内寂聴、そして母の、常識では考えられないような関係をベースに描いている。

 厚い信頼を寄せる廣木隆一監督や、恋人・白木篤郎を演じた豊川悦司とのエピソードなど、じっくり語ってくれた。

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みはるを演じることができるのは寺島しのぶしかいない

――原作の『あちらにいる鬼』は、映画のお話が出る前から読んでおられたそうですね。どんな感想をお持ちでしたか。

 みはる、笙子、篤郎は不思議な三角関係ですが、淡々と書かれていて、だからこそ読者はそれぞれの思いに想像を巡らせることができます。あっという間に読み終わりました。最初に映画化のお話を伺ったときは、笙子をやりたいと思ったんです。どうしたって妻には勝てないでしょ? でも、廣木さんに「そうしたら誰がみはるをやるの」と言われて、みはるをやらせていただくことになりました。

――廣木監督作品の出演は、『ヴァイブレータ』、『機関車先生』、『やわらかい生活』に続き4作目です。前作の公開は2006年でした。

 その間にドラマ『ソドムの林檎~ロトを殺した娘たち』(2013)と『三面記事の女たちー愛の巣―』(2015)でご一緒しました。映画を一緒に作ろうという話は、毎年のようにしていたのですが、なかなか題材が決まらなくて。『あちらにいる鬼』の製作が決まったあとも、コロナ禍になってしまい撮影が延期になり、企画から2年越しで完成しました。もう撮れないのではないかと、半ば諦めていた時期もあったくらいです。

――瀬戸内寂聴さんとは交流はあったのですか?

 いいえ。一度だけバラエティ番組で、リモートでお会いする機会があっただけです。本当は撮影前に京都でお目にかかる予定だったのですが、ちょうど新型コロナの感染が拡大し、移動が困難な時期に入ってしまいキャンセルに。結局、叶わないままになってしまいました。

 きっと、直接会わないということに何か意味があったのだと思っています。今年になって、撮影前に寂庵(瀬戸内寂聴が生前開いた寺院)に伺い、ご挨拶させていただきました。

2022.10.08(土)
文=黒瀬朋子
写真=伊藤彰紀