みはるに憧れる部分はあっても、さすがに真似できない
――今回演じた、長内みはる/寂光はどういう女性だと思われましたか?
情熱を帯びた人ですよね。何よりも自分のために生きた。そうでなければお子さんを置いて、家を出るなどできなかったと思います。戦争があり、子供を養うことができなかったから、泣く泣く夫に預けたわけですけれども。
寂聴さんの小説を拝読すると、必ずどこかに娘さんの話が入っています。懺悔の気持ちを常にお持ちだったんじゃないかなと思います。
――みはるに対して、共感はありましたか?
そうですね……自分でも制御できないほどの情熱が溢れている、愛に徹するところは素敵だなと思います。でも、私はあそこまで思うままには生きられないですね。息子もいますし、梨園も含め、自分の家族だけでは済まない部分もある。私の行動次第でたくさんの人にご迷惑をかけてしまう立場にあるので、弾けられない。
――完成作をご覧になって、印象に残っているシーンはどこですか?
篤郎さんのストリップかな。60歳にしてストリップですよ! 豊川さんは頑張ったと思います。あのシーンの撮影の何日か前から顔が険しくなっていましたから。終わったあとに「大丈夫でした?」とメールを送ったら、「役者って、やれと言われたら、やっちゃうんだね。自分でもびっくりした」と返事が来ました。
きっと、みはると篤郎は双子のような感覚だったんだと思う
――本作は井上荒野さんの小説だけでなく、原 一男監督のドキュメンタリー映画『全身小説家』で描かれていた井上光晴さんのエピソードも盛り込まれていたようですね。
そうなんです。熱狂的なファンと篤郎さんとのシーンも面白いですね。篤郎さんの周囲だけが一夫多妻制みたいで。クランクインする前はそのことについてすごく考えてしまいました。妻とみはるの立場が違うのはよくわかる。でも、篤郎にとって、その他大勢の愛人たちとみはるは何が違うのだろう? と。それがきっと文学だったのでしょう。
みはると篤郎は誕生日も同じという縁もあり、双子みたいな感覚があったんだと思います。どうしても引き合ってしまうマグネットのように。台本には描かれていませんが、みはるもきっと篤郎さん以外にお相手がいて、女版・篤郎みたいなところがあったと想像していました。
2022.10.08(土)
文=黒瀬朋子
写真=伊藤彰紀