あまった食材の使い切りや食べ切りって、いわば冷蔵庫内の“帳尻あわせ”。そして時に、おいしいものを食べて発散するのも“心の帳尻あわせ”的なこと。食と気持ちの帳尻あわせライフをつづる、フードライター白央篤司さんの連載です。
梅雨の湿気払いには「焼きなす」!
連日、梅雨のじめじめとした風が吹く。このところ大きな仕事も続き、どうにも疲れたある日の帰り道、突然焼きなすが食べたくなってしまった。思わずSNSに「焼きなす、食べたい」なんて書き込んでしまう。ちょうどこれから旬の時季、スーパーに寄って張りのいいなすを買い、家に着くなりグリルに入れた。
皮に4か所ぐらい、たてに切り目を入れておくと後でむきやすい。強めの中火に10分ほどかけ、こんがりと焼く。皮が黒くなるぐらいでちょうどいい。熱いのをがまんしながら、焼きたての皮をむくと独特の匂いが立って、香ばしさにたまらなくなる。焼く間に準備しておいた、おろししょうがとおかかを一緒に添えて、醤油をちょっとかけ回していただこう。
ああ、これこれ……このみずみずしさ! 焼きなすだけが持つ清涼感が口の中に広がっていく。この清涼感が、梅雨の湿気払いにもってこいなんだよなあと毎年思う。そう、暑気払いじゃなくて、湿気払い。
曇り空が続く梅雨どきって、心の調子も曇りがちにならないだろうか? なんだか年々、私は天気が体調とメンタル具合にかなり影響するようになってしまった。この時季の湿り気を帯びた大気は体におぶさってくるようで、気持ちが重いほうに引っ張られがちなのだ。湿った空気って、音程のおかしな、調子はずれの音楽に近いものを感じてしまう。接しているとどうにも気持ちが乱されてしまうというか。
そんなとき私は、焼きなすが食べたくなる。なすを火にかけ、焼ける香りを嗅ぎ、香ばしさと清涼感を口いっぱいに感じるうち、心にたまった湿り気が吹っ飛び、気分がすっきりと晴れてくるのだ。これもまた私なりの気持ちの帳尻合わせ、料理によるセルフ・メンテナンスの一環なんである。
