『ワイルド・スピード』が大好きだから挑戦できた

 伊坂幸太郎の小説『マリアビートル』がブラッド・ピット主演で映画化。映画のタイトル『ブレット・トレイン』を日本語に直訳すると、「弾丸列車」と、人を食ったような本作の醍醐味。監督が『デッドプール2』のデヴィッド・リーチと聞けば、そういうことかと合点がいくだろう。

 異世界のような“ザ・ニッポン”がむせ返る超高速列車を舞台に、アクションあり、血しぶきあり、ギャグあり、そして情念系ドラマもあり。ワケあり悪党どもが騙し騙され、追いつ追われつ……豪華キャストが嬉々として大暴れ!

 この、スカッと夏の暑さを吹き飛ばしてくれる、いかにもハリウッド映画らしいミステリー・アクション映画の日本語吹替版に、山本舞香さんが声優初挑戦した。山本さんが扮するのは、外見はふつうの女子学生だが、狡猾で悪魔のような性格の持ち主のプリンスだ。

 初にしてアクの強い役に挑んだわけだが、「実は私、元々自分の声があまり好きじゃないんです。常にちょっと低めのテンションで話すので、楽しいと思っているのに相手にそれが伝わらなかったり、何をしていても棒読みに聞こえるというか」と意外な告白。そんな一瞬の逡巡を吹き飛ばしたのは、なんと監督の名前だったそう。

「吹替のお話をいただいた時、デヴィッド・リーチ監督の作品だと聞いて、それならやってみたい、と思ったんです。私、『ワイルド・スピード』シリーズがとにかく好きで、リーチ監督の『スーパーコンボ』も4、5回は観ていて。長い休みが取れると、第1作から最新作まで、通しで何度か見ているくらい。中でも一番好きなのは、ポール・ウォーカーの遺作となった『スカイミッション』です」

 これまでも自身のアクションシーンを撮った後に、息遣いなどを後からアフレコ録りした経験があるという山本さん。それが今回、役に立ったとしながらも、同時に全くの別物だったと振り返る。

「これまでは、自分がお芝居したときのことを思い出して声を当てていましたが、別の俳優さんがお芝居したものに声を当てるというのは、すごく新鮮でした」

 ピンクのカーディガンにミニスカートのプリンスが登場した瞬間は、きっと誰の目にも“キュートな女の子”と映る。ところが登場する度に、印象を変えていく。しかも悪い方へ。どんどん観客の印象を裏切っていく役でもある。

 山本さんは、「明るいセリフの中に闇や棘があるというのは、演じたジョーイ・キングさんが既に表情などで表現している。私はそれを自分の中に落とし込み、彼女のお芝居を見ながら“あ、こういう感じだろうな”と推測しながら、それを声に出していくというのは新しい感覚で、すごく楽しかったです。私は小さな頃から人間観察が好きで、“この人は今、こういう感情なんだろうな”と察知するのが得意でもあったので、それに近いものを感じました」と語る。

2022.08.30(火)
文=折田千鶴子
写真=平松市聖
ヘアメイク=KUBOKI(Three PEACE)
スタイリスト=津野真吾(impiger)