「一番娯楽が必要なのは、育児をされている方々だと思う」

――お風呂に入れる係と、ピックアップして拭く係を妻とふたりで分担しています。そういった状況もあって、仕事と妊娠・出産・育児の両立だったり、負担の分担については自分にとっては現在進行形の問題ですね。工さんは『ゾッキ』含めた監督作で、現場に託児所を設置されていますが、育児への意識が高まるきっかけなどあったのでしょうか?

 私自身、父親が映像業界の人間で、緑山スタジオだったり役者としていま訪れるような現場によく見学に行っていたんです。父の仕事仲間のお子さんも同じように現場に来ていて、そこで子ども同士のコミュニティが生まれたりして。そんななかで、我が家はどういうことでご飯を食べているのかを子ども心に感じ取っていました。

 こういった環境は時代なのか、もしくはその現場がたまたまそうだったのかはわからないのですが、すごく良い環境だなと感じていて。ですが、自分が俳優になってから、女性スタッフや役者の方々が妊娠・出産・育児というタイミングで映画業界から本意ではなく離れていく姿を何度も目にしたんです。

 業界的に大いなる損失なのに、どこか「そういうものだ」と受け止めてしまう風潮――それは自分もその一人だったかと思いますが――を感じ、なんとかこの状況を変えられないかと考えるようになりました。

 海外ロケに参加したり海外のクルーと一緒に仕事をすると、特にフランスなどはユニオンの決まりがしっかりしているのでお昼休みに家族と過ごせるんです。結構な僻地にロケに行っても、家族と合流してお昼ご飯を食べられる。労働時間も決まっているので、家に帰ってからまた家族との時間を持つことができる。労働とプライバシーが自然に共存しているんです。

 一方日本は、全てではないと思うのですが――特に女性スタッフの方が妊娠を経験されると、職場に対してまず遠慮をしてしまう。出産・育児と仕事の乖離が容認されすぎた業態なんですよね。僕が現状できることは小さな半径ではあるのですが、全てではなくても少しでも選択肢を増やしたいという考えでやっています。

 もっと言うと、映画館もそうなんですよ。封切りすぐの作品でも、平日のお昼などに行くとお客さんが全然いない。モールの映画館などだと、施設内に託児所がある場合も多いですし、うまく連動できれば子育てで大変な親が月に1回でも映画を観られて、「観るだけに没頭できる」機会を作れるはず。一番娯楽が必要なのは、育児をされている方々だと思うんです。

――あぁ、わかります。育児が始まると、どうしても映画館から足が遠のいてしまう……。

 そうなんですよ。一番遠いものになってしまいますよね。決して満席とは言えない映画館の座席を観ていると切なくなりますし、山田孝之さんと「体制を作りたい」と考えているのですが、なかなかすぐは実施ができないという現状で……。

 託児所を設置する場合はお子さんの数だけシッターさんが必要であるとか、県をまたぐと赤ちゃんを預かるハードルが上がるということをいろいろな方に教えてもらいつつ、本当に必要なものは何なのかヒアリングして、現場で出来ることをやっているという感じです。

2022.08.10(水)
文=SYO
撮影=平松市聖