試写を観て「立ち上がれなかった」

――思いの詰まった作品ですが、試写を観た直後はどういう感慨にふけりましたか?

 観終わった後は……最初、立ち上がれませんでした。観ながらいろいろな思いが巡ってきました。

 言えることは、去年11月に撮影した『冬薔薇』は、あのときの時点で自分ができること、持っているものは120%で全部出した、ということです。後悔はないですし、やりきりました、これ以上のものはないです。自分としては本当にこの作品から「第二章」じゃないですけど、新たにここからまたやっていくぞ、という気持ちになった瞬間でもありました。

――スクリーンを眺めていると、伊藤さんはスクリーンが映えると改めて感じます。映画への思いも格別ですか?

 本当ですか、ありがとうございます!

 1年という時間を経て、またスクリーンに自分が帰って来られたことは本当に、本当に嬉しかったです。そもそも僕が「この仕事を続けていこう」と思った瞬間はと言うと、初めて映画館の大きなスクリーンに、自分の顔がばーん! と出たのを見たときだったんです。自分がやっていることに対して、観に来てくれている人たちが笑ってくれたり、感動してくれたりするのを肌で感じたとき、すごく嬉しくて。

 でも、その感覚が……。その後ありがたいことにお仕事をぶわーっといただいていた期間があったので……。

――出演していることが伊藤さんの常になっていったので、感覚が麻痺していくと言いますか。

 少し薄れていた部分も正直ありました。(作品への出演が)当たり前ではないけれど、慣れみたいな感覚があったんだと思います。

 リセットされた今だから、「あぁー、出てる……!」みたいな感覚がすごくありましたね。嬉しさは初めてスクリーンを観たあの日よりも、何倍もありました。この作品には本当に感謝が詰まっているし、自分にとっては宝物です。ずっと心の中にしまっておきたい作品になりました。

2022.05.28(土)
文=赤山恭子
撮影=山元茂樹