日本アニメ界最高峰のスタッフが集結した映画『鹿の王 ユナと約束の旅』の公開が、ついにスタート。その主題歌「One Reason」を手がけたのがmiletさんだ。

  強大な帝国が支配する世界で、突如として蔓延した“謎の病”から生き延び、過酷な運命に抗いながらも旅を続ける、血の繋がらない父娘・ヴァンとユナの絆を描いた物語を、壮大なバラードで彩っている。

 CREA WEBでは初登場となるmiletさん。音楽を始めたきっかけや、コロナ禍を経て気づいた想い、憧れの人との秘話もたっぷり伺った。

“愛しぬく覚悟”を曲で表現したかった

――先日リリースされたセカンドアルバム『visions』のラストを飾る「One Reason」は映画『鹿の王 ユナと約束の旅』主題歌ですが、オファーを受けたときのことや、映画を観た印象について教えてください。

 原作を読み進めるうちに壮大な世界観に圧倒され、自分自身が大自然の中にどんどん没入していく感覚になりました。なので、どういう曲を作ろうか考えるまでもなく、スムーズに曲が作れたと思います。最大限の愛の歌を作りたかったので壮大なバラードになったんですが、映画のスケール感に負けないか心配もあり……。原作を振り返りながら曲を流して、やっと「あ、大丈夫だ」って確信できました。

 完成した映画を観て、自然や動物の表情が本当に美しく描かれていると思いました。私は安藤さんが手掛けた『もののけ姫』がすごく好きで、小さな頃から何度も繰り返し観ているんです。『鹿の王』の飛鹿(ピュイカ)はヤックルを彷彿とさせるものがあったりして、いろんな記憶が蘇りましたね。

 謎の病っていうテーマには今とリンクするものを感じましたし、映像からはマイナスイオンが漂っているといいますか、すごくリフレッシュする気持ちも味わいながら、血の繋がり以上の強い愛で結ばれているヴァンとユナの関係性にすごく温かい気持ちになりました。

 観終わった後は、「大自然の中に行きたい」、「大切な人に会いたい」という気持ちが自然と生まれてきました。ユナの、いろんなものを見てどんどん成長していくピュアな姿に「One Reason」が重なっていたと思いましたし、映画によって曲の世界観も広げてもらえて、とても嬉しかったです。

――「One Reason」は大切な人への愛に加え、強い意志や孤独な闘志といった、映画で描かれている様々な感情が多層的に描かれています。特に大切にした部分はどんなところですか?

 愛にはいろんな種類があると思います。ヴァンとユナは血の繋がりはないので“家族愛”と言えるのかはわからないですが、愛することには覚悟が必要なんだ、ということを感じました。このふたりから感じた“何があっても愛し抜く覚悟”というのは、多くの曲や映画で描かれているような“綺麗な愛”とはまた違う重みがあります。それを曲でも表現したかったんです。

――曲や映画を通して、実際にどんなことを思い浮かべましたか?

 家族のことを一番に考えました。両親は身近な存在だけれど、私の知らない顔があったり、「私が生まれる前はどんな人たちだったんだろう?」というような想いを巡らせました。「One Reason」の歌詞にあるように、人は巻き戻せない時間の中で生きているし、それぞれの人生、過去があります。相手の過去も愛せるような大きな人でありたいし、心を開いて生きていたいと思いました。私も愛する人には自分のありのままの過去を知ってもらいたいと思いましたし、そういう気持ちが歌詞に繋がっていきましたね。

2022.02.05(土)
文=小松香里
写真=平松市聖