このオーディションに挑戦したことは私の運命だった

 2021年、壮絶な“バトル”の末、ひとりの新たな女優が誕生したことをご存じでしょうか?

 彼女の名前は、飯沼愛、18歳。香川県で育った普通の女子高生が、ある日突然、女優になった。きっかけは、田辺エージェンシー×秋元康×TBSによるスター育成プロジェクト「私が女優になる日_」。

 約9,000人のオーディションを乗り越え、最終候補の10人に選ばれた彼女は、3ヶ月にわたる演技バトルを見事に勝ち抜き、女優デビューのチャンスを勝ち取った。

 全くの演技未経験者でありながら、番組内では高い演技力で常に首位を守り続けた。やがて、飯沼愛ならこれくらいできて当然。そんな見えないハードルが課せられているような場面もあった。

 それでも彼女は回を重ねるごとに高まるハードルを、その強い心で軽やかに飛び越えた。

 まさにリアル『ガラスの仮面』、令和の北島マヤ! 番組内で負けず嫌いのしっかり者に見えた彼女は、本当はどんな女の子なのだろうか。

(全2回の1回目。後編へ続く)

人の成長を見るのが好き。教師になりたかった

――念願の女優デビューを勝ち取ったわけですが、実はもともとそんなに女優になりたいという願望があったわけではなかったそうですね。

 そうですね。中学の頃はバスケ部で毎日練習に必死だったし、高校は部活も勉強も充実した普通の学校生活を送っていて。特に夢というのもなかったんです。漠然と教師になりたいなと思って、将来は教育学部に行こうかなと考えていたくらいで。

――教師になりたいと思ったのはなぜなんでしょう。

 人の成長を見るのが好きで。特に、中学の先生になりたかったんです。中1から中3の成長ってすごいじゃないですか。それをそばで見られる仕事って素敵だなと思って。あとは、給食が好きだったので、毎日給食が食べたかったというのもあります(笑)。

 米粉パンが大好きで。本当は給食のパンって持って帰っちゃダメなんですけど、あまりにおいしくて、私は自転車通学だったので、ヘルメットの下にこっそり隠して、よく持って帰ってました(笑)。

――それが、どうして芸能界に興味を持つようになったんですか。

 高校1年生の夏休みに遊びに行った大阪でスカウトを受けて。そのときは特にやりたいと思ったわけではなかったんですけど、少しずつそういう道もあるのかなと考えはじめるようになりました。

 そのときまで自分が芸能界に入ることなんてまったく考えてもいなかったので、正直びっくりしました。

――そこから1年後、改めて進路を考えなければいけなくなった時期に、『私が女優になる日_』のオーディションの告知を見て応募することを決めた、と。

 最初にこのオーディションに応募するっていう話をお母さんにしたとき、あんまり真剣に聞いてもらえなくて。自分の中では思い切って決断したことだったので、ちょっとがっかりして、1回、受けるのをやめようかなと思ったんですね。

 だけど、その後も何度も何度もこのオーディションの広告を目にすることがあって。そのたびにやってみたいという気持ちが胸の奥でウズウズして。

 最終的に挑戦しようと決めたのは、これは受けなきゃ後悔すると思ったから。それで、締め切りのギリギリに応募して。今思えば、このオーディションに挑戦すること自体が私の運命だったんだなと思います。

2021.10.11(月)
文=横川良明
撮影=松本輝一
スタイリスト=木下彩
ヘアメイク=Otama