「止まっている暇はないよ! という感じなんです」

 現在、隼人さんは歌舞伎座「九月大歌舞伎」で上演されている古典の演目『盛綱陣屋』で信楽太郎を演じています。

 「ご注進といって戦場での様子を伝える役なのですが、せりふではなくそれを義太夫の語りに合わせて身体で表現します。激しい動きもあり形として格好良く見せながら、内容をきちんと伝えていかなければならないんです。

 先輩方には到底、及ばない部分があるのはわかっていますが、今の若さだからこそ出せるものもあるはず。それを大事にして今の自分にしかできない信楽太郎を演じたいと思っています」

 コロナ禍で立ち止まった経験を経て、「舞台に出られることのありがたみ」を改めて実感したという隼人さん。

 「毎回のチャンスを確実にものにしていかなければと考えています。どんな小さなことでも吸収して、自分の引き出しを増やしていきたい。本当にもう、止まっている暇はないよ! という感じなんです」

 溌溂と語る隼人さんは十月も歌舞伎座に出演。演じるのは第三部で上演される『松竹梅湯島掛額』の吉三郎で、勇ましい信楽太郎とは対照的な二枚目の役どころです。

コラム【歌舞伎座ギャラリーで権八】

 歌舞伎ができる喜びを全身で受け止め日々の舞台に邁進している隼人さんが、久しぶりに訪れたのは歌舞伎座タワー5階にある「歌舞伎座ギャラリー」。以前はここでトークイベントなども行われていたのですが、緊急事態宣言下にある現在は一部のエリアのみが無料開放となっています。
 この時に展示されていたのは、『御存 鈴ヶ森』という演目に使用される背景を模したパネルでした。江戸でその名を轟かせる侠客の親分・幡随院長兵衛と、殺人の罪を犯して逃走中の美少年・白井権八の出会いを描いた物語で、隼人さんは2017年1月の「新春浅草歌舞伎」で権八を演じています。

 「よくできていますねえ。すべて平面の縮小版ですけれど、雰囲気は本物そっくりです」
 興味深そうにパネルを見つめていた隼人さん、そのクオリティーに感化されたのかおもむろに手足を動かし始めました。どうやら権八の立廻りが甦って来たようです。
 俳優さんの芸は、こうして身体に覚え込ませた一つひとつのスキルが積み重なり、年月を経るほどに綾となって磨かれていくのです。そしてその輝きは人によっても年代によっても千差万別、常に変化しています。
 つまりその時の、その人でしか味わえない貴重な瞬間というものもあり、そこにライブパフォーマンスとしての歌舞伎の魅力があるのです。

●隼人さん 第三部『松竹梅湯島掛額』小姓吉三郎役で出演!
「十月大歌舞伎」

期間 2021年10月2日(土)~27日(水)
第一部 午前11時~
第二部 午後2時15分~
第三部 午後5時30分~
※休演 7日(木)、19日(火)
会場 歌舞伎座
https://www.kabuki-bito.jp/theaters/kabukiza/play/728/


●隼人さん 第三部『花競忠臣顔見勢』に出演!
「吉例顔見世大歌舞伎」

期間 2021年11月1日(月)~26日(金)
第一部 午前11時~
第二部 午後2時30分~
第三部 午後6分~
会場 歌舞伎座
https://www.kabuki-bito.jp/theaters/kabukiza/play/731/

中村隼人(なかむら・はやと)

1993年、二代目中村錦之助の長男として生まれる。2002年2月、歌舞伎座『寺子屋』の松王丸一子小太郎で初代中村隼人を名のり初舞台。立役を中心に、古典歌舞伎からスーパー歌舞伎Ⅱ『ワンピース』『新版 オグリ』や新作歌舞伎『NARUTO-ナルト-』まで活躍。2021年9月は歌舞伎座第二部『近江源氏先陣館 盛綱陣屋』、10月は歌舞伎座第三部『松竹梅湯島掛額』、11月は歌舞伎座第三部『花競忠臣顔見勢』に出演。

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