コロナ禍において、日々、移ろいゆく状況や価値観の多様化に、皆が戸惑い翻弄されています。歌舞伎の未来を担う若手歌舞伎俳優のみなさんは、この事態とどのように向き合い日々の舞台に臨まれているのでしょうか。スペシャルインタビューでその想いを伺います。


客席の笑顔が「何よりうれしかった」再開後の公演

 歌舞伎座「七月大歌舞伎」で上演中の『蜘蛛の絲宿直噺』に出演中の中村福之助さんが、この演目に出会ったのは2020年11月、やはり歌舞伎座でのことでした。

 「(市川)猿之助のおにいさん得意の変化舞踊なんですが、早替りのあまりの早さにびっくりしました。スタッフやお弟子さんたちのチームワークがすごくて、裏で何が行われているのかわからないくらい静かなのに、あっという間に違う姿で登場される……。

 自分自身、めちゃくちゃ楽しかったですし、何よりうれしかったのはお客様がそれをものすごく楽しそうにご覧になっていらしたことです」

 感染者数の減少とリバウンドが繰り返され「ぜひ劇場にいらしてくださいとは言いにくい」状況が続く中、客席の笑顔は何よりの喜びだったそうです。

 福之助さんがコロナを最初に強く意識させられたのは2020年3月。京都・南座で上演予定だったスーパー歌舞伎Ⅱ『新版 オグリ』が公演中止になった時でした。

 「初日が何回か延期になり最終的に中止になったのですが、ものすごくショックでした。

 前年の10、11月に東京の新橋演舞場で初演し2月に福岡の博多座で上演した作品で、規模や舞台機構の異なる劇場に合わせて台本や立廻りを練り直し、お客様により楽しんでいただけるようにとみんなで頑張ってきた舞台でしたから」

 その後すべての歌舞伎公演がストップしてしまった自粛期間中は、兄・橋之助さんと弟・歌之助さんと共に古典の作品である『義経千本桜 川連法眼館』のせりふを一緒に勉強していたそうです。

 「お互いに『そこ、何言っているかわからないよ』とか『こうじゃない?』とか言いながらやっていました。兄弟ですから遠慮なく言い合えます。そうするとひとりだと気づけない部分がよくわかりました」

2021.07.16(金)
文=清水まり
撮影=今井知佑