巳之助さん、右近さんと挑んだ人気演目『三人吉三』
2020年10、11月は歌舞伎座、12月はやはり伝統ある京都の南座へと歌舞伎公演への出演が続き、2021年新春も歌舞伎座で迎えました。主演ドラマの撮影が終わり、再び歌舞伎座の舞台に立つことになった5月、大役に巡り合います。『三人吉三巴白浪』のお坊吉三です。
お嬢吉三、お坊吉三、そして和尚吉三という、同じ“吉三”の名を持つ3人の盗賊の出会いを描いた場面の上演で、七五調のせりふが耳に心地よい名作です。お嬢吉三は尾上右近さん、兄貴分の和尚吉三は坂東巳之助さんで若手を抜擢した配役でした。
「僕たちは意外に冷静でした。3人で歌舞伎座の幕を開けることの責任を感じ、そしてやるからには他の部を食ってやろうというくらいの熱量で勤めたいと思いました。そして舞台でふたりに接していると、どんどんレベルを上げているのがわかりました。そうなると自分も負けてはいられません。そんなふうに芝居ができることがとてもうれしく、今思い返しても楽しいひと月でした」
その後も隼人さんは古典のさまざまな役を演じて成果を上げています。
代々受け継がれて来た歌舞伎の役には、各時代を生きた俳優が工夫した技術が緻密に積み上げられています。演じ手がそれらを習得し、身体表現と役の心情とがバランスよく融合した時に、観客は得も言われぬ感動と出会うことができます。
その境地に到達するには日々の鍛錬はもちろんのこと、大きな舞台での経験値もまた重要。本番で実力が発揮できてこその世界で、それはアスリートにも通じるのではないでしょうか。
2021.09.26(日)
文=清水まり
撮影=石川啓次
スタイリング=石橋修一
ヘアメイク=佐藤健行(HAPP’S.)