「カルテット」

「届くかなあ……」

「届けます!」

───「カルテット」10話

 共同生活をしていた軽井沢の別荘から出ていった真紀を、カルテットの他の面々が東京まで迎えに行く場面。団地のどの部屋に住んでいるか分からない真紀をおびき出すために、三人は演奏を開始。

 洗濯物を干したり、引き戸を閉めたりする真紀の日常的動作の中に、突然、仲間達が奏でる音色が流れ込んでくる。居ても立っても居られなくなった真紀は部屋を飛び出し、団地の階段を転げるように降りてきて、すっ転ぶところも象徴的で素晴らしい。

「三人を見つけた後、いったんは背を向けて立ち去ろうとする真紀を、彼らのテーマ曲とも言える『Music For A Found Harmonium』が引き留める展開は見事。四人の関係性を取り戻す名シーン」(岡室さん)

「Mother」

「お母さん……
 もう一回誘拐して」

───「Mother」10話

 当時まだ五歳だった芦田愛菜演じる継美こと怜南が、自分を虐待する母親から「誘拐」したヒロイン奈緒に泣きながら電話で訴えるシーン。

 一度は逮捕されてしまうが、執行猶予がつき自宅に戻った奈緒。携帯電話の電源を入れると、連なる非通知の着信履歴が。養護施設で元気に暮らしていること、楽しい様子を一生懸命話す怜南が次に放つのがこの言葉。

「奈緒は誘拐した罪で裁かれるが、その誘拐がどれほど怜南のことを救ったかを一瞬にして表現した名セリフ。芦田愛菜さんの可愛さと演技力は尋常ではなかったと改めて思わせてくれます」(岡室さん)

2021.09.25(土)
Text=Daisuke Watanuki
Illustrations=Sayako Yamashita

CREA 2021年秋号
※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。

この記事の掲載号

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