「映画を作るって、人から与えてもらう面白さだと思う」(西川さん)

――ちなみに、次に西川監督と仲野さんが組むとしたら、どんな作品が良いですか?

西川 いつか主役でやってほしいですね(笑)。

仲野 いやー……嬉しいです(笑)。西川さんは、当て書き(役者を想定して脚本を書くこと)はするんですか?

西川 当て書きは、オリジナル脚本のときはしないんです。ただ今回は原案があったから、人物像がすでに存在したんですよね。でも時代設定も大きく変えましたから、厳密には小説とは個性が異なるわけで、映画のために独立した人物として書いていく覚悟が必要だった。そこで映画のための「顔」が欲しくて、シナリオを書く前に役所さんに企画を説明したら「前向きに考えます」とおっしゃってくれたので、役所さんだと思って書きました。今回、初めての経験でしたね。

 当て書きって、確約がないと万が一駄目だったときに取り返しがつかなくなってしまうんですよ。声質などもイメージしながら書きますからね。だから、これからもオリジナルのときは当て書きはしないんじゃないかなと思います。

 あと、シナリオとキャスティングがズレていくのが面白いんですよ。俳優のイメージとの間にズレがあると、「ちょっと違う」が面白くなっていくんです。

仲野 可能性がどんどん広がっていくような……。

西川 そうそう。映画を作るって、人から与えてもらう面白さだと思うんです。だから、太賀くんが今までやっていない役を、どうやって見つけられるか。何をやったら、彼にとって「難しい。どうしたらいいんだろう」って悩んでもらえるか。うまく見つかれば、声を掛けられると思います。

仲野 いや、すごいな……。

西川 何か、ヒントをください(笑)。

仲野 えっ!(笑) そうですね……(考え込む)。自分も、与えてもらう役が似通ってくることがあって、演じるほうとしてはそれぞれに違う個性があると思っていますが、ざっくりくくられてしまうところもあって……。いかに自分の思いもしなかったところに引き出しを見つけられるか、発見があると自分も嬉しいですね。

 自分が持っている「これくらいの引き出しがある」という自信を超えた要求をされることで、外側から枠を広げてもらう。そうすると、思いもよらないものが生まれる。「太賀といえばこういうポジションでしょ」と言われちゃうとやっぱり寂しいし、そうじゃないところで踏ん張りたいですね。

西川 でも、太賀くんは年を取っていくのが楽しみな人だと思います。中年になって、若さとはまた別のものが身に着くと、さらに面白くなる。そんな期待をさせてくれる役者さんですね。

仲野 本当ですか。嬉しいです。

――『すばらしき世界』のお話に限らず、日本映画全体のお話も伺ってきましたが、昔の日本映画でおふたりがオススメのものはありますか?

仲野 僕は、『太陽を盗んだ男』(79)でしょうか。題材的になかなか今はできない作品ですし、一種の“劇薬”的に観たら、面白いんじゃないかと思います。

西川 私は、成瀬巳喜男監督の作品を。外れがないし、どれをとっても面白い。

 いまって、本当にいい時代だと思います。動画配信サービスなどで、家にいながらDVDにもなっていなかったような掘り出し物の作品を観られるわけですから。でも、本当は、いい映画を観たければ数を打つしかないと思いますけどね(笑)。

 失敗をすることで、いかに良い映画が類まれなものかがわかるようになるし、良い映画にたどり着きやすくなる。「良い」と言われるものだけを観ていたら、わからないですよね。定額で映画が観放題というのはすごく贅沢な環境なので、どんどん失敗してほしいなと思います。

西川美和(にしかわ・みわ)

1974年7月8日、広島県生まれ。2002年オリジナル脚本の映画『蛇イチゴ』で監督デビュー。同作品で第58回毎日映画コンクール脚本賞を受賞。06年『ゆれる』で第59回カンヌ国際映画祭に出品される。09年『ディア・ドクター』では第83回キネマ旬報ベスト・テン日本映画第1位に輝く。続く『夢売るふたり』(12)、『永い言い訳』(16)でトロント国際映画祭に出品。6作目の長編映画『すばらしき世界』の制作過程を綴った『スクリーンが待っている』(小学館)が発売中。

仲野太賀(なかの・たいが)

1993年2月7日、東京都生まれ。2006年に俳優デビュー。主な映画出演作に、『桐島、部活やめるってよ』(12)、『走れ、絶望に追いつかれない速さで』、『アズミ・ハルコは行方不明』、『淵に立つ』(16)、『ポンチョに夜明けの風はらませて』(17)、『母さんがどんなに僕を嫌いでも』、『来る』(18)、『今日から俺は‼劇場版』、『生きちゃった』『泣く子はいねぇが』(20)など多数。映画『あの頃。』が2月19日(金)から全国公開。

映画『すばらしき世界』

下町の片隅で暮らす短気ですぐカッとなる三上(役所広司)は、強面の見た目に反して、優しく真っ直ぐすぎて困っている人を放っておけない男。しかし彼は、人生の大半を刑務所で過ごした元殺人犯だった。一度社会のレールを外れるも何とか再生しようと悪戦苦闘する三上に、若手テレビマンの津乃田(仲野太賀)と吉澤(長澤まさみ)がすり寄りネタにしようと目論むが……。三上の過去と今を追ううちに、逆に思いもよらないものを目撃していく――。

監督・脚本:西川美和
原案:佐木隆三著『身分帳』(講談社文庫)
出演:役所広司、仲野太賀、橋爪功、梶芽衣子、六角精児、北村有起哉、長澤まさみほか

2021年2月11日(木・祝)全国公開
https://wwws.warnerbros.co.jp/subarashikisekai/

2021.02.10(水)
文=SYO
撮影=佐藤 亘
スタイリスト=石井 大(仲野)
ヘアメイク=酒井夢月(西川)、高橋将氣(仲野)