ワゴンデザートをなげうってミルフィーユへ
ステーキサンドにポーッとなって、「どうですか~?」と話しかけてくれたボリーさんに「おいしいです!」「おいしいです!」とバカみたいに繰り返すボキャブラリーレスなライター、哀れ……。ウィットに富んだフランス語の絶賛セリフでも用意しておきたいものである。そして、「スープを選んだの、正しいね!」と言われたかぼちゃのポタージュ、これまたすごい。上の方はとろりとしてかぼちゃの甘い甘い味が満ちたポタージュなのだが、下の方にスパイシーな味が隠されていて、食べ進むとイメージがちょっとずつ変わっていく。ほんのりカレーっぽいかんじに。自然な味なのに手が込んでいて、また「おいしいです!」「おいしいです!」。
自分を褒めたいチョイスだったのがデザートだ。こちらでは「パティスリーコンチェルト」という名前でワゴンデザートを楽しめる。特注のワゴンで10種類くらいのデザートがやってきて、その中から好きな数を選ぶ。なかなか幸せなひとときであろう……が、私と連れが選んだのは、ミルフィーユ! 「1つ4400円!?」ということで、メニューがお披露目されたときに場をざわつかせたひと品である。もちろん、二人分はゆうにあるということで、一致団結。ここはミルフィーユ。初対面したミルフィーユちゃんの、まあ、シンプルなこと。当然、いちごなど入っていない。パイ生地とクリームが重なっているのみ。
しかし、この重なりの素晴らしいこと!! ボリーさんが通りかかって「ナイフは縦に入れるときれいに食べられるよ~」と伝授してくれたので、「は~い。」と言われたとおりに。そうすると、もはやその手応えから違う。乾いた落ち葉の上を歩くような、サコサコサコという感触がある。色濃く焼き込まれたパイ生地は火の入った粉の味わいがじんわり。プラリネクリームはナッツの香ばしさとコクがみっちりと。なんだかもう、夢のような味! もしかしたら3~4名でも楽しめるかな、と思うくらいたっぷりの量なので、ぜひシェアして試してほしい。
「次回のお目当てはショコラのスフレだね~」と心に決め、まだ開いているお買い物フロアへなだれ込む。なんという夢の国! 欲望のパラダイス! ボリーさん、また会いに行きます。
ル サロン ジャック・ボリー
住所 東京都新宿区新宿3-14-1 伊勢丹新宿店本館4階
電話番号 03-5363-5688
北條芽以(ほうじょう めい)
神奈川県鎌倉市生まれ。情報誌編集者を経てフリーライター、ときどき料理本の編纂なども担当。炭水化物と肉を愛し、お酒は意外と飲めない。東京~軽井沢間の新幹線通勤を始めたので終電との戦いが新鮮な毎日。
Column
北條芽以のLOVEレストラン
美味なるLOVEなひと皿を求めてレストランに通う日々。
著者が偏愛する、この季節、このお店のLOVEはいったい何? あなたの次のレストラン選びに参考になること間違いなし!
2013.01.08(火)