【今月のこの1枚】
AKI INOMATA
『やどかりに
「やど」をわたしてみる』
他者とのうまい付き合い方を
ヤドカリから学ぶ

アーティストAKI INOMATAの作品に触れるといつも、小中学生のころのあの日に戻って、課外活動に勤しんでいる気分にさせられます。
校庭でウサギやニワトリを育てたり、教室でメダカやカメを飼っていた人は多いはず。あれは単なるレクリエーションじゃなくて、「生命を尊び育む」大切さを学ぶためだったことでしょう。
たしかに世話は面倒だったけれど、ケージや水槽を覗き込んで彼らと目を合わせれば、なんだか意思が通じ合う感触もあって、動物たちを愛おしく感じたものでした。
課外活動で得た「みんな、ともに生きてる」という教えのほうが、国語や算数の授業内容なんかよりずっと手応えのあるものとして、心のどこかに残っているのでは?
そうしたごくシンプルだけどやっぱり大切なことを、AKI INOMATAの作品は、大人になった私たちに改めて教えてくれます。
たとえば掲出の《やどかりに「やど」をわたしてみる-White Chapel-》は、彼女の代表作のひとつ。これがどういうものかといえば。
INOMATAはまず、世界各地の建築物を3Dプリンターでかたどり、ヤドカリの殻のサイズに仕立てます。それを生きたヤドカリと出会わせます。ヤドカリがINOMATAのつくった宿を気に入れば、引っ越しがおこなわれるので、その様子をINOMATAは記録していくのです。
プロセスの丸ごとが作品になっているのですが、この制作過程はかなり地道なものにならざるを得ません。相手は生きものなので意図通りに動いてくれるかどうかわかりませんし、そもそも長い期間をかけて生きものと付き合うには、彼らを飼い続けなければいけません。
実際INOMATAは日ごろ、飼育に多大な労力と時間をかけているといいます。
INOMATAは徹底して、生きものたちを創作における対等のパートナーとして扱い、両者の気持ちがうまくつながったときだけ作品が成立する。それでいいのだとINOMATAは思っているようです。
一歩ずつ自分の足で歩いている確かな感覚、それが観る側にはっきり伝わってくるのも、AKI INOMATA作品の魅力のひとつ。
十和田市現代美術館で開かれる彼女の個展では、ヤドカリのみならずアサリ、ミノムシ、タコなどとのコラボレーションが観られます。
ともに生きることの意味を、種を超えた他者から教えてもらいましょう。
『やどかりに「やど」をわたしてみる』
生物との協働によって作品を生み出すAKI IN OMATAの大規模個展。ヤドカリからミノムシまで多様な生きものが登場する中、十和田ゆかりの南部馬をテーマに据えた新作映像作品《ギャロップする南部馬》も出品される。
会場 十和田市現代美術館(青森・十和田)
会期 2019年9月14日(土)~2020年1月13日(月)
料金 企画展+常設展セット券 一般 1,200円(税込)ほか
電話番号 0176-20-1127
http://towadaartcenter.com/
2019.09.22(日)
文=山内宏泰
CREA 2019年10月号
※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。